35年前の生放送で起きた衝撃の放送事故 伝説のロックスターが抱いた強い覚悟と怒り
ロック史に残る伝説の事件をひも解くのは今しかない
――では、あらためて今回ザ・タイマーズの特番を制作しようと思ったきっかけは。 「(メジャーデビューし)35周年を記念したリリースがあると聞いた時に、このロック史に残る伝説の事件をひも解くのは今しかない、と思ったんです。素材を持ってるフジテレビでしかできない番組ですし、『自分がやらなきゃ誰もやらないし、今やるしかない』と思いました。すると多くの方に企画に乗っていただき、メンバーはもちろん、レコード会社のスタッフ、そして爆笑問題の太田光さん、中村獅童さん、怒髪天の増子直純さん、TOSHI-LOWさんからもザ・タイマーズへの熱い思いを語っていただきました。彼らからいただいた言葉を通して、『ザ・タイマーズとは何だったのか?』をしっかりと描くことができました」 ――平野さんはその後、『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』や清志郎さんのドキュメンタリーなど、さまざまな番組で清志郎さんを間近で見てきました。 「口数の少ない方だったので、お会いしても本当に他愛もない話ばかりでした。今でも記憶に残っているのが2006年に清志郎さんが、メンフィスでアルバム(『夢助』)をレコーディングしたドキュメンタリー番組(『忌野清志郎“This Time”』)で、『清志郎さんにとってR&Bとは?』という質問をしたら、間髪入れず『ターカタッ!ですかね?』って答えたんです。まさにメンフィスソウルのリズム! その答えを聞いた時、『清志郎さん天才だな』って思いました」 ――清志郎さんは09年に亡くなりましたが、清志郎さんが残したザ・タイマーズを通して番組で伝えたかったこととは。 「清志郎さんは僕にとってヒーローであり、稀代のトリックスターです。いつも清志郎さんの前に立つと『この人と話していいのだろうか』ってふわふわしていました。その中でもザ・タイマーズはある意味『幻』だった気がしています。あの頃から今の情報社会を予言していたかのような曲ばかりです。『間違った情報に惑わされるな』という強烈なメッセージが彼らの根底にあって『自分の頭で考えて、自分で答えを出せ』『言いたいことはちゃんと言え』って教えてくれます。だからリアルタイムを知らない若い世代にこそ、ぜひ番組を見ていただきたいです。清志郎さんが残してくれたものを感じ取っていただけたらうれしいです」 オリジナルドキュメンタリー番組『拝啓!ザ・タイマーズ~あれから35年~』はフジテレビNEXTで11月16日午後9時~11時に放送。 □平野雄大(ひらの・ゆうだい)1969年生まれ。早稲田大卒。早稲田祭で見たザ・タイマーズのパフォーマンスに衝撃を受ける。フジテレビ一芸一能採用の入社面接でザ・タイマーズの『LONG TIME AGO』の替え歌を披露し、93年、株式会社フジテレビジョンに入社。『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』『FACTORY』などの音楽番組を歴任。『フジロックフェスティバル』『アラバキロックフェス』などの音楽フェスの特番を担当。2022年3月に同局を退社し、同年6月に株式会社FACTORYを設立する。現在は音楽番組やライブ・MVの映像制作にイベント制作、キャスティング業務などに従事。 □ザ・タイマーズ 1988年結成の4人組“新人”覆面バンド。メンバーは忌野清志郎によく似たZERRY(ボーカル・ギター)、MOJO CLUBの三宅伸治に似たTOPPI(ギター)、ヒルビリー・バップスの川上剛に似たBOBBY(ウッドベース)、MOJO CLUBの杉山章二丸に似たPAH(ドラムス)。土木作業員風衣装に地下足袋、全共闘学生運動を思わせるヘルメットやフェイスマスクでの奇妙ないでたちでコンセプトは「ロックとブルースと演歌とジャリタレポップスのユーゴー」。89年10月11日に東芝EMI(当時)からシングル『デイ・ドリーム・ビリーバー』をリリースし、メジャーデビュー。直後の10月13日にフジテレビ系『ヒットスタジオR&N』に出演し“放送事故”を起こす。同年11月8日にメジャー1stアルバム『THE TIMERS』をリリースした。
福嶋剛