自民党裏金問題は「監査」の問題ではない? 会計士協会がわざわざ「会長声明」を出して責任逃れ
誰が気づくべきだったか
自民党の派閥を巡るいわゆる「裏金」問題は、真相が明らかになったとは言えないまま、手続き上のミスということで関係者の処分だけが行われて幕引きがされようとしている。本当にミスならば、誰も気が付く人はいなかったのか。 【写真】「子育て支援金」を医療保険料で取る新たな「実質増税手法」は愚の骨頂 実は、政党や政治家が代表を務める政治資金団体などには「外部監査」の制度が導入されている。では、その監査を行っていた「監査人」にはまったく責任がないのだろうか。政党はれっきとした監査法人が担当、政治資金団体は法律の定めによって公認会計士や税理士、弁護士が監査することになっている。会計のプロが報酬をもらった上で「監査」を行っているのだから、問題が起きれば本来、責任が問われるべきだ。 例えば、上場企業である東芝の粉飾決算が表面化した際には、東芝の歴代社長は罪に問われなかった一方で、監査を行っていた会計士は業務停止処分を受けている。粉飾で業務停止を受けた会計士がその後、監査の現場に戻るのは難しいので、かなり厳しい処分だったと言える。プロとしての責任が明確に問われたわけだ。 ではこれだけ世間を騒がせている政党や政治資金団体に対する「監査」で、なぜ会計のプロの責任は問われないのか。
「あれは会計監査ではない」
4月12日になって日本公認会計士協会が茂木哲也会長名で、「会長声明」なるものを出した。タイトルは「国会における政治改革に関する特別委員会の設置について」。国会で特別委員会が設置され、政治資金規制法の強化が議論されるタイミングで出したのは分かるとして、議論されている外部監査の拡充や徹底を求めるという会計士らしい声明にはまったくなっていない。 声明では、「今般の自由民主党の一部の派閥における政治資金収支報告書の一連の問題は、そもそも収支記録の帳簿への記載という会計の極めて基本的な部分が行われなかったもの」だとして、会計の不備が大きな原因であることを認めているが、会計のプロとしての責任については「会計の専門家である公認会計士から見て誠に遺憾であります」と述べるに留まっている。その上で、「政治資金規正法に基づく政治資金監査は、ガバナンスをその前提とせずに会計事務に対して外形的・定型的に確認を行う業務」だとしている。 ちょっと分かりにくいが、どういうことか。 要は政治資金監査は本当の意味での監査ではない、と言っているのだ。ベテラン会計士の多くは「政治資金監査はあれは監査ではありません。なんちゃって監査ですよ」と異口同音に言う。収入の記載に漏れがないかチェックする義務はなく、それに付随する支出があって記載されていなくても問題にしない。提示された領収書と帳簿を付きわせるだけで、民間企業の監査なら当然行う銀行預金の残高調査も行っていないケースがほとんど。資金の流れや財産の状況を把握する「監査」とは到底呼べない代物なのだ。 だったら、会長声明で「あれは監査ではない」「きちんとした監査を行うべきだ」と主張すれば良いように思うが、そうはしない。そもそもガバナンスが悪いのだから会計士に責任はない、と言っているのが前出の声明の読み方だ。つまり、責任逃れである。