『モンスター』“亮子”趣里が体罰問題に挑む 正義に酔った社会に鳴らす警鐘
視聴者と並走する杉浦(ジェシー)の担う役割
『モンスター』の杉浦は亮子に振り回される役柄だ。謎めいた主人公のかたわらで、杉浦は右往左往しながら自分なりに懸命に依頼者と向き合う。ドラマの世界と視聴者をつなぐのが杉浦の役割であり、自分に求められるのが“受け”の演技であることをジェシーはよく理解している。ジェシーその人は非常に才気あふれる人だが、本作では自分から積極的に動くというより受け身に徹しているのが面白い。 物語を動かすのが亮子の役割なら、視聴者と並走するのが杉浦である。場面に応じて身振りを交え、表情筋を駆使して見せる驚きや戸惑いの表情は、情報量が多く展開の早いドラマに視聴者をいざない、没入感を高める効果がある。 大学を訴えた神宮寺(夏生大湖)が、同じゴールキーパーでレギュラーの武田(本田響矢)のために負担の大きい練習をやめさせようとしていたこと。第4話は夢を追う二人の絆が印象的だった。「友情」がテーマであることは、ドラマ冒頭の姿や、友達について話す亮子と杉浦の会話で示唆されていた。クライマックスの法廷シーンでいっきに顕在化する構成が巧みだった。 亮子の口を通して繰り返し語られたのは、信ぴょう性の低い報道や噂に左右される社会への警鐘だった。これは多分に脚本家のメッセージも込められていると思われる。“正義”に酔いしれて何かをやった気になっているが、実は誰かが仕組んだ舞台の上で踊らされているだけ。犯人探しを否定し、何者かになりたい私たちの欲望とエゴを“モンスター”としてとらえる視点は、現在の社会に対する痛烈な風刺になっていた。
石河コウヘイ