蓮舫代表・稲田防衛相辞任 民進と自民、政党の遠心力と求心力
「遠心力を求心力に変えた」党内競争
こうした集合行為問題の克服が、民進党の再建には不可欠である。いみじくも辞意表明時の会見で蓮舫氏は「どうすれば遠心力を求心力に変えることができるのか」と述べていた。上記のような集合行為問題は党内に遠心力を生み出してしまうが、民進党が態勢を立て直し有権者の信頼を回復するためには、この遠心力をうまくコントロールして求心力に変えていかなくてはならない。その上で、有権者にアピールできる理念と政策、すなわち、与党に対する有効な選択肢となりうる理念と政策の軸を定めていかなくてはならない。 そのために必要なのは、まず、理念と政策について徹底的に党内で議論した上で、しっかりと基軸を定めることである。そして、いったん基軸を決めたら、余程のことがない限り当分の間はそれを堅持していくことである。各議員には、たとえ多少の異論が残っても、党全体の利益に配慮して戦略的に行動することが求められよう。 55年体制の自民党のあり方も参考になるかもしれない。かつての自民党は「派閥の連合体」とも呼ばれたように派閥間の対立抗争が激しかったが、それでも自民党は分裂することなく長期政権を保つことができた。その理由の一つとして、派閥の競争を通じて政治家が育成・鍛錬され、優れたリーダーが生み出されたことがあると思われる。いわば、派閥間の競争という遠心力を、党全体の活力という求心力に転換するメカニズムを有していたのである。 自民党では歴史的な発展過程でそうしたメカニズムが生成されていったと考えられるが、歴史の短い民進党の場合には、自覚的にそうしたメカニズムを導入することが検討されるべきだろう。
官邸への求心力が強すぎる自民党
ところで、蓮舫氏辞意表明翌日の7月28日には、稲田防衛相が辞任した。与野党ともに混迷が深まる状況であるが、自民党の抱える問題と民進党のそれは大きく異なる。民進党の場合は党内の遠心力が強すぎるのが問題である一方、自民党の場合は官邸への求心力が強すぎることが問題である。かねてから批判の強かった稲田防衛相を安倍首相が擁護し続けたため、かえって傷を広げてしまった観がある。 かつての自民党と異なり、現在の自民党には党内の競争が不足している。党内競争がもっと活発であれば、不適切な政治家は淘汰され、適切なリーダーを選抜していくことが可能だったと思われる。競争メカニズムを通じたリーダー選抜メカニズムの再生が問われているのではないか。 これまでの政治制度改革の議論においては、小選挙区制や官邸主導体制など求心力強化の方に比重が置かれていた。しかし現在の状況はむしろ、求心力偏重の弊害が出てきているようである。求心力(リーダーシップ)と遠心力(競争)のバランスが求められているとも言えよう。
------------------------------ ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など