今だから思うことは「もっと強く大学を勧めてあげたらよかった」内野智章監督の後悔
興國サッカー部の知名度を一から全国区まで押し上げた内野智章監督。その興國からはFW古橋亨梧(セルティックFC)を筆頭に数々のプロ選手が輩出され、内野監督の指導方法や育成理論にも注目が集まった。しかし昨年、監督交代が発表されると今年の2月、内野監督は新天地として奈良クラブを選択。高校の先生からJクラブユースでの指導者へと舵を切った。ゼネラルマネージャーとユースコーチ(U-18B担当)兼テクニカルダイレクターに就任すると、9月にはユース監督に昇格した。 奈良クラブユース・内野監督インタビュー#3(最終回)ではJクラブに来てみて思うことを赤裸々に語ってもらった。 ―――以前、現役時代に奈良の社会人チームでプレーをしていたと仰っていたと思いますが、今回また奈良だなと思ったのですが。 まずは、なにか奈良に縁があるなと思いますよね。社会人(高田FC)の時に試合会場になっていたのが奈良産業大学のグラウンドだったんですが、ナラディーア(奈良クラブの練習場)ってそこなんですよ。だからナラディーアまで行く道のりが20年ぶりでめちゃくちゃ懐かしかったです。練習場も1キロ先だったので「ここ通ってたわ」って思います。だからなんか縁があるなとは感じていますね。 僕らが子供の頃、小中の頃って奈良がめちゃくちゃサッカー強かったんです。奈良のチームって、高田FCもめちゃくちゃ個人技が高くて、中学でも平群中学というところが全国に出たり。有名なJリーガーも出てるし。僕らが子供の頃、当時大阪はそんなにサッカーが強くなくて、奈良といえば高田FCを筆頭に"個人技"。めちゃくちゃ個人技が高い奴らが奈良にはいてるっていう強烈なイメージがあったんですよね。 だから高田FCの人ともこの間会った時に「その時のイメージの奈良をもう一回取り戻したい」と話していたんです。"個人技の奈良"じゃないけど、奈良のサッカーの色をもう一回取り戻そうと。 めちゃくちゃ個性の強いチームと選手ばかりだったので。今も高田FCは個性が強いんですけど、でもやっぱり大阪に持っていかれている部分も正直あるので。僕らが高校の時は楢崎正剛さん(元日本代表)を筆頭に奈良育英もめちゃくちゃ強かったし。だからもう一回ね、大阪には数や規模では絶対に勝てないんで、個性で大阪と戦えるように。そういう意味でも奈良は個性の強いサッカーをする土地だってなるように盛り上げたいですね。 ―――最後に、興國から多くのプロ選手が誕生しましたが、内野さんがJクラブに来てみて「もうちょっとこうすればよかったかな」と彼らに対して思うことはありますか? めちゃくちゃあります。とにかく、大学をもっと勧めたらよかった。樺山諒乃介(群馬)とか数人の選手以外には基本的には大学を勧めてきたんです。だけど、高卒でプロに行った選手たちの苦しみっぷりを見ていると、逆に大学に行った選手たちの充実っぷりをみていると、もちろんそうじゃない逆のパターンの選手もいますけど、確率で言うと圧倒的に大学に行った選手たちの方が充実している。「本人の気持ちを尊重して」と立派な指導者っぽいことを言わずに、強制じゃないけど、もっと強く大学を勧めてあげたらよかったのかなと、めちゃくちゃ思います。 それとさっきの話に繋がりますが、もうちょっと自分に余裕を持っていられたら、もっと良い指導というか、あんなにわめかずに、指導できたのかなと。奈良クラブに来てから申し訳なかったなと思うことは結構あります。もっと自分に余裕があれば、もっと柔らかく指導が出来たんじゃないかとか。やっぱり大学を強く勧めればよかったとか。Jに行った選手たちに対しては特に怒られ役じゃないですけど、厳しく接していたので。 それには理由もちゃんとあって、プロに行くかもという選手たちに、どういう風に理不尽な環境であったり、問題解決能力を修行させる方法があるのかなとなった時に、当時の僕にはあれしか考えつかなかった。厳しく接したり、ボロカス言ったり。振り返ってみると、プロになった選手やプロになりそうな選手にしか言ってはないんですけど。 高校からプロに行くと、辛くて厳しい環境が待っているというのがわかっているので、だから高校の間に厳しくしていたんですけど、別にもうちょっと高校で優しくして、そんなに詰め込まずに大学に行って、大学で色んな人生経験をしてからプロになったら、もっと良かったのかなとめちゃくちゃ思っています。 ―――難しい問題ですね。学校としても、内野さんとしても、周りから注目されるためにも選手がプロに行くということが必要だった部分もあったと思いますし。 それはあります。学校のブランディングだったり。良い選手に一人でも多く来てもらいたいという戦略の中で、そういうブランディングも確かにあったんですが、だいぶ厳しいことを言ってきたし。奈良クラブに来てみて、そうしなくても川井や関口なんかはプロになっている訳なので、もっと他のやり方があったなと思います。 本当に大学に行った選手の方が充実しているので。それもまた結果論なんですけどね。大学に行かせた選手がプロになれなかったら、プロに行かせればよかったと思うんでしょうけど、それぐらい高卒でプロに行った選手たちが苦しんでいるので。それでもいい経験でしたと言えるぐらい、プロに行った選手たちは頑張っているから、僕の大きなお世話なのかもしれないですけど。大卒Jリーガーの方がプロで試合に出ているし、大学で色んな経験をして、成長して大人になって、プロの世界に行ってるので。 一種の強迫観念に駆られていましたね。この選手はきっと高卒でプロになっちゃうから、高校の間にできるだけ色んなことをさせないと、プロに行って潰れちゃうと。 ―――そういう選手たちには色んなポジションをやらせたりもしていましたね。 そう。メンタル的にも。結局プロになったら人前で叩かれるわけじゃないですか。メディアや世間にも。だから、プロになりそうな選手には、みんなの前で怒ることも多かったですし。だけど、そうまでして行ったけどみんな苦労してるから。大学に行ってあと4年ゆっくり色んな経験をしてからでもよかったのかなと凄く思いますね。答えはないかもしれないですが。 ―――高卒プロの子たちが20歳くらいまで全然試合に出られないのをみていると、大事な時期に公式戦に出れないことを残念に思ってしまいます。 それは大きいですよね。高校の先生の時はこういう話をすると、Jクラブ批判だっていう人もいたんですけど、今はJクラブにいるんで。Jクラブの誰かが悪いなんて全く思わないですね。改めてJクラブに来てみて、トップチームが勝つか負けるかで色んなことが変わってくるのがわかるし。今の日本のJのシステムがやっぱり育てられるシステムじゃないんです。 それは監督が悪いとも強化部が悪いとも一切思わないです。やっぱり勝たないといけないんで。プロだから。だから、やっぱり19-21歳の3年間の育成する仕組みというか、システムを作らないことには、やっぱり大学サッカーに委ねるしかないのかなと正直思います。だからちょっとでも目に付くよう、OBたちの得点シーンだったりは自分のSNSで紹介するようにしています。 彼らが悪いわけでもなくて、彼らを取ったチームも悪くない。ちゃんと足を運んで何試合も見て、協議した上で獲得してくれているし、そこに行くと選んだのは本人たちなので、誰も悪くないんですけど、シンプルにゲームに出るチャンネルがない。だからなにかそこの仕組みを考えないといけないなと思います。