輪島朝市で過ごしたかけがえのない時間…温かく元気なあの朝市の様子を今すぐ伝えたい理由〈能登半島地震〉
元旦に発生した令和6年能登半島地震。その被災の様子に、昨年秋に彼の地を旅したばかりの僕は言葉を失った。なかでも大火災に見舞われた輪島朝市で過ごした時間はかけがえのない思い出となっている。その明るく活気に満ちた温かな朝市の様子を少しでも残しておきたく、本稿をお届けする。 【画像】地元の人も観光客も、露店を見ながらそぞろ歩く輪島朝市
能登半島一周の途中で立ち寄った、活気あふれる輪島朝市
2023年11月14日の午前8時頃、その町に到着した。 自力でカスタムした軽バンの車中泊専用カーに乗り、東京の家を発ったのは2日前。 5泊6日の日程で北陸地方を巡る旅のなか、石川県輪島市河井町の“輪島朝市”に立ち寄ることにしたのだ。 日本三大朝市のひとつに数えられる輪島朝市は、平安時代に始まり、明治以降は毎日開催されるようになった伝統の市場。 「朝市通り」と呼ばれる約360mの商店街に、最大で200以上の露店が立ち並び、地元の人から観光客まで数多くの人々が訪れ、とても賑わうという。 海沿いの駐車場に車を停めた僕は、さっそく朝市通りに赴いた。 通りの両脇には雨風よけのタープを立てた露店が並び、活気のある声がそちらこちらから聞こえてくる。 平日だったためか、店の数も客の数も想像していたよりは少なかったが、むしろそのおかげで落ち着いた雰囲気が漂い、観光名所ではあるものの、地元の昔ながらの朝市にお邪魔しているような気分になることができた。 通りの端から露店を一つ一つ覗いていくと、土地柄を反映し、カニをメインとした魚介類や干物などの海産物を扱う店、秋に収穫した地元の野菜や果物を売る店、また有名な輪島塗の箸や食器など工芸・民芸品を売る店などが並んでいた。 店先に立つのは年嵩の女性が多く、通りを歩く客に、「どうぞ、見てってー」「カニ、お安くしますよー」などと威勢よく声をかけている。 立派なベニズワイガニが目につき、そのうちの一軒で立ち止まると、「カニですか? 輪島の海で獲れたばっかりだから、美味しいよお」とおばちゃんが声をかけてきた。 でも僕の車中泊旅はこの先も数日間続く予定だったので、ここで生ものを買って持ち歩くわけにはいかない。 「東京に送れます?」と聞くと、おばちゃんは「もちろん。明日には着きますよ」と答えた。 そこで東京にいる妻にLINEのビデオ通話をかけ、何を送ってほしいか聞いてみることにした。 妻はこちらの映像を見ながら、「ズワイガニ美味しそう! あ、香箱ガニもある! それ、珍しいんだよ。あとは何がいいか、お店の人に聞いてみて」と指令を出してきた。 「妻がそう申しておりまして、おススメはなんでしょうか?」と言う僕に、おばちゃんは「奥さん?」とニコニコしながら聞いてくる。 「そうなんです。もう言いなりで」と答えると、おばちゃんは「それがいいわ。円満円満」と言ってケラケラ笑った。 そして「じゃあ干物にしたら。おすすめはふぐ、のどぐろ。赤魚も美味しいですよ」と教えてくれた。 結局、ベニズワイガニ一杯、香箱ガニ三杯、そしてのどぐろと赤魚の一夜干しを各一尾ずつ、東京の家に送った。