「私も当事者」明かした香川県議 吃音のある子どもへの支援求める
香川県議会の定例本会議で、ある県議が吃音(きつおん)に関する県の支援策について質問した際、「私も当事者です」と明かした。吃音は、どもって思うように言葉が出ない発話障害だ。話すことに消極的になり、社会に適応できなくなる人も少なくない。質問に込めた思いを本人に取材した。【佐々木雅彦】 県議は富野和憲氏(52)。富野氏ら地方議員でつくる「超党派議員ネットワーク」は7月、全国10都県343市区町村が作成している3歳児健診の問診票について、吃音の症状を示す項目に関する調査結果を発表した。この結果を踏まえ、富野氏は10月9日に香川県議会で質問した。 調査の結果、問診票に吃音の症状に関する項目を明記している市区町村は1・2%にとどまっていた。調査に協力した吃音診療の専門家である富里周太・慶応大医学部助教は「吃音は2~4歳で発症することが多く、3歳児健診で発見できなければ、十分な支援につなげられない可能性がある」と指摘している。 富野議員は質問で、香川県内各市町の問診票の記載状況を尋ね、市町に働きかけて吃音のある子どもの実態を把握するよう県に求めた。また、市町が保健師や医師、保育士、保護者らに吃音への理解を促すリーフレットを配布できるように支援してほしいと訴えた。 池田豊人知事は、吃音の症状が具体的に明記されているのは1市だけと説明した上で、「市町に対して記載を働きかけていく」と答えた。リーフレットの配布についても「周囲の理解不足から適切に対応されなかった場合、子どもの健全育成に影響が生じる可能性がある。市町と問題意識を共有して検討する」と述べた。 富野氏は質問の中で、自身の体験も述べた。1995年に高松市職員となり、最初の配属先は納税課だった。課名の冒頭の「の」を発するのにも苦労した。銀行員からかかってきた電話に、どもりながら「納税課です」とやっとの思いで話すと、相手に5秒間くらい大笑いされたこともあった。富野氏は取材に、恥ずかしさのあまり電話を切ってしまったと当時を振り返った。 富野氏は2002年に結婚してまもなく、妻に吃音のつらさを話した。妻は「そうなん? 気にならんけど」とおおらかに受け止めてくれた。おかげで、自分が思うほど周りは気にしていないのかなと思えるようになり、話すことに失敗したと思っても、受け流せるようになったという。 07年に市役所を退職して政治の世界に入った。街頭演説の際に吃音を指摘されることもあったが、次第に吃音に困ることはなくなっていった。今回の議会質問の内容を練る際には、どもりそうな文言は言いやすく換えるなど工夫したという。 本会議の質問はこう締めくくった。「当事者の苦しみや悲しみにどうか寄り添っていただき、今後吃音への理解が深まり、早期の支援ができるよう県の対応を求めます」 ◇吃音 言葉の最初の一音を「ぼぼぼくは」と繰り返す連発▽「ぼ―くは」と引き伸ばす伸発▽最初の一音が出ない難発――の症状がある。成人の100人に1人が抱えているとされ、確立された治療法はない。周囲からからかわれたり、奇異な目で見られたりした経験から「みんなが自然にできることが自分はできない」と劣等感を抱き、ひきこもりや社交不安症につながる人も少なくない。