破竹の勢いを見せる「インド」は日本を超えるのか 市場価値は高まる一方、埋まらない貧富の格差差
しかし、これによってインドのキャッシュレス化が一気に進んだ。タンス預金への信頼がなくなり、クレジットカードの利用、銀行口座の開設が進み、そして日本のPayPay のもとになったインド発のQRコード決済のシステムが青果店から雑貨店まで田舎の市場の隅々にまで広がった。 今後のインド経済もおおむね楽観視されている。2023年度の実質GDP(国内総生産)の成長率は8.2%だったとインド政府は発表した。製造業などが好調で、予測を大きく上回った。実体経済が伴っていないとして、この数字より低く見積もる向きもあるが、どんなに低く見積もっても5%以上はある。
日本をはじめとする西側各国が先進国病に悩む中、経済好調なアメリカを優に越えており、減速を続ける中国経済に抜かれることは当面ないだろうというのが大方の見方だ。 ■著しい格差と不平等 しかしその一方で格差は拡大し、経済的利益は不平等に広がった。 インドの成長の大部分は、巨大で厳しく管理された企業と、高所得者の頂点に立つ一部の人々の動向に左右されている。世界不平等研究所によると、インド人の上位1%が年間国民所得の約23%、国富の約40%を占めているという。
経済規模が世界第3位になったとしても、貧しい国であることに変わりはなく、国民1人あたりの所得ではまだ世界143位だ。海外でより良い収入を得ようとだまされて、ウクライナ危機ではロシアの傭兵として戦ったインド人もいる。 インド経済の内実を見ると、著しい格差と不平等が広がっている。 インド人のほとんどは田舎に住んでおり栄養失調の人たちも多い。その一方で、高級品の売り上げは、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、急増した。雇用も実は厳しい状態が続いている。失業率も高止まりが続いている。生産年齢人口の増加に雇用創出が追いついていない。
1人当たりGDPは2000ドルを超えたが、国民の4割超が世界銀行の貧困ライン以下で暮らす。統計に上がってこないインフォーマルセクターの「隠れた失業」はさらに多い。 ■モディ首相による経済成功物語 モディ経済の過去10年間でインドは確かに成長した。注意しなければならないのは、実はその前の10年間も成長を続けてきているということだ。 モディの前任で経済学者マンモハン・シンの首相在任期間中にも今と同じ高成長を続けてきている。ところが、その成長をもたらしたのが誰なのか。インドは今その成功の理由をモディという政治家1人に集約しようとしている。