思いがけぬ妊娠、相談先を探して漂流する女性に寄り添う「にんしんSOS」 過酷な状況で絶望、孤立する女性と30回以上やりとり重ねて心解きほぐす
「ひどい状況の中、よくここまで生きてきたねと思います」
令和4年度の児童虐待による死亡者は72人、そのうち心中以外の死亡は56人ですが、0歳児は25人を占め、なかでも月齢0か月、つまり生まれてすぐに死亡した赤ちゃんは15人です(こども家庭庁調査)。どの命も、支援につながれば助けられた可能性は高く、そのためにも孤立出産を防ぐこと、思いがけない妊娠をしてしまった女性をサポートすることは命にかかわる重要な措置です。 こうした女性たちに向き合ってきた中島さんは、「この子たちは何も悪いことはしていない。ひどい状況の中、よくここまで生きてきたねと思います」と話します。それまでの過酷な状況で絶望してしまった女性は本心を明かすことも難しく、相談員は何度もやり取りを繰り返しながら慎重に心を解きほぐすことに苦心します。ピッコラーレでの本人と相談員のやりとりの回数は平均で37.3回(2023年度)です。そのかいあって病院や行政などの窓口にもつながり、無事に出産したり、中絶して自分自身の人生を歩み始めた女性もいます。
若年妊婦を受け入れる施設で出産迎える
ピッコラーレでは、安心して過ごせる場所がなく、行政や医療機関にもつながれなかった若年妊婦を受け入れる「ぴさら」という施設を運営し、必要な医療へのアクセスをサポートし、これからのことをゆっくり考えることができるよう伴走支援を行っています。 2024年は7人が過ごし、6人が無事出産を迎えることができました。ぴさらでは、「あまりご飯を食べられていなかった妊婦がきちんと食事をしたら貧血が改善した」「朝まで誰にも邪魔されずにぐっすり眠ることができて健康的になった」といった身体の回復だけでなく、自分の意見が尊重されること、自分のことは自分で決めてよいなど、精神的自立につながる経験を促しています。ぴさらを出てからもその後の生活基盤を整えるところまで伴走は続いています。
行政の支援を確認
一方、行政は「孤立出産」について、どのような対策をしているのでしょうか?児童福祉法では、出産後の養育や出産前に支援が特に必要と認められる妊婦を「特定妊婦」とし、法改正により今年4月から「妊産婦等生活援助事業」がスタートしています。 これは家庭生活に困難を抱えているなど出産前の女性で助けを必要としている人を支援し、出産後も赤ちゃんを育てるための情報提供、支援の計画、病院との連携などで伴走して自立を促していく事業で、ピッコラーレも東京都の補助事業者としてかかわっています。こうした妊婦支援は結果として生後0日死亡を防ぐことにもつながります。令和6年10月1日現在で20自治体、23か所で実施されていますが、さらなる自治体での対応拡大が望まれます。 また、こども家庭庁の来年度概算要求には、「特定妊婦等支援機関ネットワーク形成事業」が盛り込まれています。これは妊産婦等生活援助事業所だけでなく、自治体や児童福祉施設、医療機関などが幅広く連携して、それぞれが持つ情報や課題を共有し、また支援スタッフの育成なども行い、幅広く困りごとを抱える妊婦をサポートできる体制作りを目指しています。こうしたネットワークの構築が実現すれば、特定妊婦も赤ちゃんも守られやすくなることが期待されます。 思いがけない妊娠をした女性に対して「自己責任」を問う声もありますが、それぞれに深い事情があり、一言で片づけられるような簡単なものではありません。また、当然のことながら出産や育児は一人でできるものではありません。妊娠で「困った」と思うことがあれば、母子ともに命や人生を守るために、まずは支援につながることが第一歩です。