高齢化、人手不足で幕 200年継承されてきた「三峰の獅子舞」 簡略化して継続する方法もあるが「伝統の形、維持できる間に幕を」と意見まとまる
埼玉県秩父市三峰の三峯神社で25日、「三峰の獅子舞」(市指定無形民俗文化財)が華やかに奉納された。獅子舞は、三峯神社の末社「諏訪神社」の付け祭りの伝統行事として、地元住民が200年近くにわたり継承してきたが、高齢化と後継者不足の影響で、今回が最後の奉納となった。境内には早朝から多くの参拝客が集い、伝統の舞の終幕を見届けた。 真剣がキラリ、荒獅子が躍動 秩父で「浦山の獅子舞」奉納 山間の集落で400年続く伝統、元住民らが守る
三峰の獅子舞は、江戸時代末期に現在の東京都奥多摩町日原から伝わったとされている。毎年8月の第4日曜日に、三峯地区の住民らで組織する三峰獅子舞保存会が、角で鹿を模した獅子頭などを頭に着け、笛や歌に合わせて小太鼓をたたきながら舞う。白足袋にはかま姿で、前庭に敷き詰めた畳の上で披露することから、「座敷ざさら」や「御殿ざさら」の呼び名としても親しまれてきた。 ■簡略化するよりも 保存会の千島幸明会長(71)は「人手不足で獅子舞を披露することが年々厳しくなっていた。簡略化して継続する方法もあるが、『伝統の形を維持できる間に、幕を閉じよう』と、メンバーで意見がまとまった」と、獅子舞奉納を終了させる理由を説明する。 千島会長によると、三峰地区は明治時代から人口が増え、一時は50世帯以上が暮らしていたが、高度経済成長期に入った1960年代以降は過疎化が進み、現在は20世帯以下に減少した。20人ほどで構成する保存会メンバーも、現住民は2人のみで、市街地などに暮らす地元地区出身者の親族が大半を占めている。
「獅子舞の舞台作りなどの下準備ができるメンバーは高齢化が著しく、体力が持たなくなってきている」。コロナ禍の影響で中止が続き、昨年に4年ぶりに行事を再開させたが、メンバーたちのつらそうな表情を見て、千島会長は「継続は無理」と改めて実感したという。 ■数々の伝承の舞披露 最後の舞台となったこの日は、伝来初期の形式を再現するため、午前4時から奉納を開始。保存会メンバーは、「じょうじょうのねこ」「かんめぐり」など、数々の伝承の舞を多くの見物客の前で、堂々と披露した。 小学生の頃から獅子舞に携わってきた千島会長は「先人たちが続けてきた伝統を終了させてしまうのは申し訳ないが、地元の人がいなくなってしまっては仕方がない。最後はメンバー一同、気合十分で本番に臨めた」としみじみ語った。 舞台を鑑賞した秩父市の風間武夫さん(80)は「少子化の影響で、市内の伝統行事がなくなっていくのは寂しい。若い人にもっと伝統芸能の貴重さ、楽しさを知ってもらいたい」と話していた。