PERSONZ、“39周年”を締め括るロック・パーティー開催 千秋がゲスト出演し「DEAR FRIENDS」をコラボ:レポート
2024年に結成40周年を迎えるPERSONZが、“39周年”(サンキューイヤー)を締め括るライブ『I AM THE BEST TOUR 2023「Year-End Ultimate Rock Party」』をさる2023年12月30日に開催した。 【写真】『I AM THE BEST TOUR 2023「Year-End Ultimate Rock Party」の模様 2020年にミニアルバム『I AM THE BEST』の発表に伴い企画されていたものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響により無念の中止となっていた『I AM THE BEST TOUR』。2023年5月から8月にかけて全国11都市にて全12公演が3年越しに開催され、文字通りPERSONZの“BEST”な楽曲をリストアップするツアーとして好評を博した。今回はその“Ultimate”=“最後の”、“究極の”というタイトルの通り、ツアーのエッセンスを凝縮しながらパーティー感溢れる特殊な演目を盛り込むという2023年最後のライブに相応しい祝宴だ。 会場は日本屈指のオフィス街の一角にある大手町三井ホール。ステージは全方位から客席に囲まれる、舞台・演劇用語で言うところの“出臍”(でべそ)という形。本来のステージから伸びた花道の先端にある張り出し舞台で今宵限りのショーが始まるとおぼしい(余談だが、この花道を有する舞台を見るとすぐに『ロックンロールオリンピック』を連想してしまうのはやはり世代だろうか)。 ■第1部はスペシャル・ゲストを招きつつ繰り広げられた珠玉のアコースティック・セット 開演17時の3分押しで、三味線JILL屋と渡邉貢がオープニングアクトとして登壇。今回の三味線JILL屋は、JILL、ななえ(七重)、いぶ(伊吹清寿)という従来の編成に加え、篠笛の玉置ひかりも参加。ご承知の通り、三味線JILL屋とはななえといぶが奏でる抒情的かつアグレッシブな三味線の旋律の中で、JILLが唄うPERSONZの名曲やロックにアレンジされた端唄を楽しませる和楽団だ。 「こんばんは。今日はお客様の見え方が全然違いますね。後ろの夜景を見てください」と、JILLがわれわれの視線をステージ背後へ注がせる。曠然たるガラス壁の向こうに広がる黄昏の都市景観。角度によっては東京タワーの見える客席もあっただろう。都会の喧騒が夕闇に溶けつつあるアーバンな雰囲気の中で最初に奏でられたのは、「TRUE LOVE」(1991年)。三味線2本と篠笛、四絃琴(ベース)の生音にシーケンスの旋律が加わり、天井高7メートルという開放的なホールの中でJILLの声が伸びやかに艶やかに響き渡る。三味線JILL屋が奏でる花鳥風月を慈しむ雅な世界が、都会の無機質な空間に温かい彩りを与えているようだ。「笛の音を聴くと春めいた感じ、小春日和を感じますね」とJILLが語るように一足早い春の訪れを感じさせた後、「次は手拍子をお願いします」と「びいはっぴい音頭」が披露される。あの「BE HAPPY」(1988年)を大胆にも音頭にアレンジ、春から一転、夏の盆踊りを思わせる一曲だ。時折、演者の後ろ姿しか見えない後方の観客に向けて唄いかけるなど、JILLは気遣いも忘れない。最後に「2017年夏に浅草のお座敷で初舞台を踏んでから早6年、三味線JILL屋はこれからもっとライブをやっていきたいです」とJILLが意気込みを語り、お囃子衆の3人に拍手を捧げながら送り出した。 気づけばステージ背後の陽はすっかり暮れている。JILLと渡邉はそのまま残り、藤田勉と本田毅が花道を渡って現れる。万雷の拍手喝采。ステージ上の4人の間隔も、ステージと客席の距離感も思いのほか近く感じる。本田がエレアコ仕様、藤田がハンドソニック(藤田いわく“音の出るサイドテーブル”。デジタル・ハンド・パーカッションのこと)を携えていることから、ここからアコースティック・セクションが始まるのが分かる。4人の距離の近さはこのアンプラグド編成あってのことだろう。このセクションでは特別ゲストが登場することもJILLから発表され、いやがうえにも期待が高まる。 演奏に入る前には、2022年に全国の重要文化財施設を中心とした会場で『【ARE YOU EXPRIENCED?】PERSONZ neo ACOUSTIC SESSION』と題したアコースティックライブ・ツアーを開催したこと、そして2024年3月からは『HAPPY BLOOMING TOUR PERSONZ neo ACOUSTIC SESSION』と銘打ち、通常のバンド・サウンドとは一味違った“ネオアコースティック”ライブ・ツアーを開催することを発表。前回も行なった京都文化博物館 別館ホールやお馴染みの横浜赤レンガ倉庫などに加え、今回は奈良・東大寺境内の金鐘ホールや福島の大和川酒造 昭和蔵など、引き続き歴史的建造物の空間独特の響きの中で極上の“ネオアコースティック”サウンドをお届けするという。この日のアコースティック・セクションはその前哨戦、『HAPPY BLOOMING TOUR』の大いなる予告篇といった趣だ。 1曲目は「TRIUMPH OF LOVE」(2015年)。言うまでもなく24年振りとなる日本武道館公演を目指して生み出されたアンセムであり、困難なときでも希望を見失わず、自分自身を信じ続けることの大切さを唄う歌のテーマは、世界的なパンデミック、紛争の勃発、気候変動など目まぐるしく変転し続ける予測不能な時代にこそ響く。JILLは1番を唄い終えると観客に手拍子を促し、会場が一体感に包まれる。本田は時折、後方へ向いてプレイ。藤田はまるでキーボーディストのような風情で卓を叩きまくっているのが面白い。渡邉は黙々と重低音を奏でてアンサンブルの屋台骨を支えることに徹しているが、会場全体を見渡しながら時折微笑んでいるのが分かる。従来のバンド合奏と比べて音がよりシンプルとなり、アンプの増幅などごまかしも一切効かないアコースティック編成でここまで重厚なアンサンブルを聴かせるのだから、積み上げてきた39年のキャリアは伊達じゃない。ナチュラルなアコースティカル・サウンドでも不屈のロック・スピリットがにじみ出てしまうのは、PERSONZがPERSONZたる所以だろう。また、JILLが「アコースティック・セットのアレンジをどうするかが今回のライブのキモで、だいぶ時間をかけて臨みました」と話していた通り、原曲の良さを損なわぬアレンジがどれも秀逸だったことを明記しておきたい。 それは、本田と渡邉のコーラスが美しい「PRECIOUS LOVE」(1990年)も同様だった。今なお止むことのないウクライナとガザの戦乱、それを伝える凄惨なニュースを見ると毎日胸が痛むというJILLのMCから曲に入り、この混沌の時代に置き換えても何ら変わらない、この世における本当に尊いものとは何なのか? という歌の真髄が伝わる。それは端的に言えば「世界に平和を」というメッセージなのだが、バブル景気全盛の時代に書かれた「PRECIOUS LOVE」の歌詞が30数年後により現実味を増すとは、何とも皮肉で悲しい。だからこそこれからもずっと唄い継いでほしい一曲だと言える。 同じく5thアルバム『PRECIOUS?』収録の「PRIVATE REVOLUTION」(1990年)も今の時代に呼応する曲なのか、“ベルリンの壁”というワードは出てくるものの、古めかしさは感じない。2020年、コロナ禍になったときにこの曲をスロー・テンポでやってみようと考えられたアコースティック・アレンジは、いつかこの形式でレコーディングして残してほしいと思うほどの逸品。本田の切ないギター・ソロも短いながら気高く美しい。終盤、JILLは椅子から立ち上がり、花道で熱唱。格段にスケールアップしたその歌唱力を聴くにつけ、PERSONZが常に最善の更新をし続けるバンドであることを実感する。 アコースティック・セット4曲目で、1人目のゲストが登壇。 モデル、歌手、俳優と幅広く活躍し、『みんなで筋肉体操』の出演などで知られる當間ローズは赤いスパンコールのジャケットを身に纏い、登場するなりJILLと熱く抱擁。イタリア、ブラジル、日本の血を引き、ポルトガル語、日本語、英語、スペイン語を駆使する當間とは、“あの曲”をラテン・テイストでデュエットするのが良いのではないかとJILLは思案。そんなMCに導かれて披露されたのは、燃え上がる恋を描いた情熱的なラブソング「月の輝く夜に」(2018年)。當間との縁を繋いだ京都の陶芸家、冨金原塊(工房えんじゅ)が制作した、お馴染みのシルバー・ムーンのオブジェをJILLが掲げながら唄う。當間は2番の平歌をポルトガル語で独唱、サビもポルトガル語でJILLとデュエットする。2人の迸るパッションのぶつかり合いをフロアも強い手拍子で盛り立て、終盤のJILLと當間の歌と身振りの掛け合いは耽美かつ妖艶で絶品だった。最後に2人は再びハグし合い、鳴り止むことのない盛大な拍手喝采が場内に響き渡った。 続いて「クリスマスは終わってしまったけれど、インスタライブでちょっと唄ってみたらやっぱりいい曲だなと思って…やってみようと」と、PERSONZ初のクリスマス・ソング「BECAUSE THE HOLY NIGHT」(2011年)が夜景の映える場内で披露される。イントロから鳴り響く手拍子、ハンドウェーブする観客も見受けられる。 「ちょっと早いけどハッピー・ニューイヤー!」と唄い終えた後、2人目のゲストが登場。 4月に行なわれた『NAONのYAON 2023』で同じステージに立ちながらも直接の共演はなかった千秋が舞台袖から現れる。ピンクのベレー帽、鮮やかな緑のチュールドレスにピンクとホワイトのボーダージャケットという洗練された出で立ち。なお、JILLがこの日着用していた赤いチュールドレスも千秋のブランド「エリアCC」のものだという。千秋は以前、自身のYouTubeチャンネルで「DEAR FRIENDS」(1989年)のカバー動画を公開していたが、高校生のときに軽音学部に所属してPERSONZのコピー・バンドをやっていたとのこと。「どんな曲をやってたの?」というJILLからの問いに「『MIDNIGHT TEENAGE SHUFFLE』(1987年)とか…」と千秋が答えると、「じゃあやってみよう!」といきなり「MIDNIGHT TEENAGE SHUFFLE」が演奏される。予定外の即興演奏に千秋は慌てふためくも、スマホで歌詞を検索して唄う。これには観客も大いに盛り上がり、千秋も「『きっといつかは夢をかなえる』という歌詞があるけど、(PERSONZと共演するという)夢が叶った! あの頃の自分に教えてあげたい!」と話し、感極まっている様子が窺えた。 興に乗じて「他にはどんな曲を?」とJILLが訊けば、千秋は「『FREEDOM WORLD』(1987年)とか…』と答え、またその場で「FREEDOM WORLD」が即興演奏される。今度はご丁寧に本田のコーラス付きだ。「凄い! いきなり言って何でもやれる!」と千秋は興奮気味に語っていたが、叩き上げバンドが演奏技量の凄まじさをさらっと見せる姿が粋に感じられるパートでもあった。そんな贅沢すぎる余興を経て、肝心のコラボレーションは「DEAR FRIENDS」(1989年)。それもラテンボッサ風とでも呼べば良いのか、千秋をイメージしたという可愛らしいアレンジが施されたレア・バージョンだ。「そばにいて いつも待っててくれる」と唄う場面ではJILLと千秋が肩を組む姿も。最後に2人は抱擁、「夢を叶えるためにYouTubeやブランド運営など全力で行動するのは凄い!」とJILLは千秋の実践力の高さを称賛する。 篠笛の玉置ひかりも、當間ローズも、そして千秋も、みな縁が繋がって同じステージに立てていることをJILLは力説。数えきれない無数の事象が関係し合い、成り立つ出会い。もし無数の事象が一つでも欠ければまた違う出会いになったかもしれないし、そもそもその出会い自体すら存在しなかったのかもしれない。巡り会えた出会いは決して当たり前のことではないし、私たちがこうして日々生活できていること自体、幾重の生起が重なった結果であり、これもまた決して当たり前のことではない。だからこそ尊い。当たり前のように感じる日常も、繰り返しのように思える人生も、実に尊い。そんなつい忘れがちな大切なことを、PERSONZの歌はいつも教えてくれる。 アコースティック・セット最後の曲は、藤田が「希望の曲ですよね」と話した「DREAMERS」(1989年)。JILLいわく「ビートでバンバンやっていたのをバラード・アレンジで」ということで、オーディエンスも手拍子で応える。アレンジの妙もさることながら、本田と渡邉のコーラスも楽曲の優美さを高めている。いつの日かオーケストラとの共演が実現することがあれば、たとえばこの「DREAMERS」はロックとクラシックが融合した至高の一曲となり得るのではないか。 以上全7曲、約1時間に及ぶ熱演。本来ならこの第1部だけでも充分に素晴らしいエンターテイメント・ショーなのだが、2023年最後、究極の“Rock Party”はまだまだ続く。