最後の「頂」あす開幕 野外音楽フェス、2008年で日本平で産声
2008年から毎夏続いてきた野外音楽フェスティバル「頂-ITADAKI-」が6月1、2両日の吉田公園(吉田町)での開催で終幕する。「頂」は地域住民が自分たちの地元で開催する「ローカルフェスティバル」の成功例として、全国の音楽ファンや関係者から注目を集める。歩んだ道をたどり、「ローカルフェス」の意義を探る。 「頂」には前史がある。03、07年に旧由比町(現静岡市清水区)の浜石岳で開かれた「浜石まつり」。03年には米シンガー・ソングライター、デビッド・リンドレーを招いた。主催は当時静岡市内で営業していたライブハウス「ブンブンバッシュ」。同店を運営していたのが現在の「頂」の小野晃義プロデューサー(57)だ。 08年開催の第1回「頂」は、同店を閉じた小野さんらが「最高の音楽を最高のシチュエーションで聴きたい」という思いで企画した。浜石まつりで得た野外演奏会のノウハウを生かし、幅広いジャンルの音楽ファンを静岡に集めるため、市内を中心に開催場所を探った。 希望地の一番手が、建て替え前の日本平ホテル(同区)だった。芝生広場の向こうに雄大な富士山が見える。「景色に魅了された。富士山をバックにステージを作ったら、出演交渉するアーティストを全部くどき落とせるという確信があった」と小野さん。ただ、同ホテルは1987年に6万人を集めたTHE ALFEEの公演以来、本格的な音楽イベントには敷地を貸していなかった。小野さんらは担当者に日参し、開催意義を猛アピール。「熱意以外、何もなかった」 同ホテルで約20年ぶりとなる音楽イベントの許可が下りたのは08年2月。開催期日に定めた6月まで、4カ月しかなかった。人脈をたどって、2日間にシンガー元ちとせやソウルバンド「フライングキッズ」ら21組をそろえたが、周知が足りず両日計2千人ほどの動員にとどまった。 事業としての成功は得られなかったが、フェスの独自性は打ち出せた。最大の成果は、環境への負荷が低いバイオディーゼル燃料で会場内の電力をまかなう取り組み。現在にもつながる、音を出すためのエネルギーの「地産地消」は第1回から唱えられていた。 第2回から会場の発電設備を担う石田明彦さん(61)=当時は建設用機械リース会社「アクティオ」所属。現在はシンビ代表取締役=は振り返る。「環境に対する考え方は始まりから一貫している。興味のない来場者にも説明を続けている。SDGsという言葉が影も形もない頃から、その姿勢はぶれていない」
静岡新聞社