「先祖の教え忘れ、馬鹿なことをした」荒れた牧草地、年老いた遊牧民の嘆き
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。 ----------
1980年代から、内モンゴルでは土地改革が行われ、牧草地が各家庭に分配された。それまで共同で使用してきた牧草地が、各家庭に分配され、それぞれが自由に使うようになった。 だが、この分配は平等ではなかった。お金がある人や権力がある人は、広い土地を鉄条網で囲み始めた。早い者勝ちだった。弱いものも黙っていられないと、借金もしながら、わずかな土地も残さず、鉄条網で囲んでいった。そのときは多くの遊牧民が、この鉄条網で自分たちの牧草地が保護されて、環境にも負担がないという政府の宣伝を信じていた。 取材中に、ある老人と話をした。 「ここ数年間牧草地がどんどん悪くなっている。それはこの鉄条網のせいだよ」。 60歳過ぎのベテラン遊牧民は、眼前に広がる錆かけて、崩れそうになった鉄条網を指しながら私に言った。 「しかし、これによって各家庭の牧草地が保護されたのではないか」。 私が尋ねると「確かにそうだが、やはり俺らが先祖の教えを忘れ、馬鹿なことをしたからだ」と嘆きながら話した。 「なぜか?」。 老人は、長々とその理由を語った。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第4回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。