《三菱UFJ貸金庫事件》なぜ犯人の名前は公表されないのか…元警察官僚が語った「理由」
なぜ名前が公表されない?
元警察官僚で秋法律事務所の澤井康生弁護士は、「シンプルに、元行員がまだ逮捕されていないからです」と苦笑する。 「特定の人物だからといった理由で警察が犯人の名前を公表しないというのは、あり得ません。たとえ犯人自身やその家族、所属していた企業から『名前は公表しないでほしい』と訴えられても聞き入れることはない。それにメディアも誰かに忖度しているわけではないでしょう。 そもそも貸金庫の中身について顧客はリストを作っていない。銀行も貸金庫の中身は把握していないことから、被害者、被害品、損害額など状況の確定に時間がかかっていると思われます。 銀行サイドもすでに警察に相談していると思いますが、上記事情もあって逮捕状の請求まで至っていないのです。逮捕されていない以上、警察は実名を公表しません」(以下、「」内は澤井弁護士) では、逮捕されたら必ず犯人の名前は公表されるのだろうか。 「犯人が逮捕されても名前を公表しない事件というのは確かにあります。ただ、それはわざわざ公表するまでもない自転車の窃盗や万引きなど軽微な事件の場合です。 一方で、殺人や強盗など重大犯罪を起こした犯人が逮捕された場合、再発防止のため広く知らせる必要があるという考えから、警察は犯人の名前を公表します。なお、重大犯罪の犯人だとしても未成年の場合は警察も名前は公表しません。少年法により実名報道そのものが禁止されているためです」 事件によっては警察の公表より前に、メディアが取材を通じて犯人と思われる人物の名前を知ることもある。もし警察の公表を待たずに実名報道をした場合はどうなるのか。
実名解禁のX デー
「法律上のペナルティーは特にありません。ただ、先走って犯人らしき人物の実名を報道したとしても、実際は逮捕されないケースもあり得ます。 その場合は誤って実名報道をされた方が、名誉毀損でメディアを訴える可能性はあるでしょう。もし原告が一般人で訴えが認められた場合、メディア側は数十万円の慰謝料を支払うことになる」 いまのところ貸金庫で窃盗を重ねた元行員の名前は公表されていないが、いずれ明らかになると考えていいのだろうか。 「被害額が十数億円とかなり大きな窃盗事件です。逮捕後、公表されると考えるのが普通でしょう。ただ先ほど述べた通り、被害状況の確定に時間がかかっている。早ければ1月中に逮捕されて名前が公表されるかもしれませんが、2月にズレ込む可能性も十分あると思います」 ―――― 【つづきを読む】『貸金庫から十数億円を盗み出し…三菱UFJ元行員の調査が難航している「意外なワケ」』では、今回の事件の深層について、さらに詳しく解説しています。
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