「私の好みは高校生の頃から変わらない」作家・藤井青銅の愛読書 ユーモアと二面性のある作品3冊を紹介(レビュー)
そのラニアンの『ガイズ&ドールズ』が出たのだ。おなじみの「ミス・サラ・ブラウンの恋の物語」も入っている。いい作品は何度だって出版されるという見本のようで、嬉しくなる。 ドナルド・E・ウェストレイクといえば数々のペンネームと、やはり二面性を持つミステリー作家だ。私は、天才犯罪プランナー・ドートマンダーが主人公のユーモアミステリー・シリーズが好きだ。『ギャンブラーが多すぎる』はその系譜。新潮文庫にウェストレイク初登場とあっては、読まずにいられない。この本の翌年からドートマンダーものが始まる。なので、それへのアプローチとして、なぜか二組のギャング団に追われる男の物語を「これこれ、この世界だよ」とニヤニヤしながら読んだ。
ここにあげたどの本の登場人物も、辛い時、嫌な気分の時、カッコつけたくなる時、うっかり真面目になにかを語りそうな時ほどユーモアを! なのだ。そこがいい。 「そうだったのか!」 とたったいま気付いた。ユーモアと二面性の作家――ではなく、二面性と折り合いをつけるためにユーモアが必要なのだ、と。あと、私の好みは百十円で新潮文庫を買った高校生の頃から変わらないということにも気付いたのだが、まあ、これはどうでもいい。 ※[私の好きな新潮文庫]ユーモアと二面性――藤井青銅 「波」2024年7月号より [レビュアー]藤井青銅(作家/脚本家/放送作家) ふじい・せいどう 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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