[ハリウッド・メディア通信] 女優パワーが炸裂したクリティクス・チョイス・アワード 『哀れなるものたち』主演女優賞受賞のエマ・ストーンが、アカデミー賞前哨戦の順風に帆をあげた!
ベスト・コメディ賞『バービー』
ベスト・コメディ賞で選ばれた『バービー』の人気は批評家の間でも根強く、あのトニー・クシュナーが「最高傑作!」と呼んだ理由は、既存のIPを使った画期的な切り口が評価されただけでなく、#MeToo以降のアメリカ世相を浮き彫りにしながらも、家族、男女で楽しめる映画として興行的に大成功させた点にある。主演女優マーゴット・ロビーがプロデューサー、グレタ・ガーウィグ監督チームと組んで、ハリウッド・ストライキ中のハリウッド映画界を盛り上げた点は、クリティクス・チョイス最優秀コメディ、オリジナル脚本としての評価に反映されている。 SeeHer賞という特別賞が与えられたのも『バービー』で、マテル社女性社員を助演したホンジュラス系アメリカ人女優のアメリカ・フェレーラが受賞。日本では「アグリー・ベティ」などの人気お茶の間TVシリーズで知られているが、彼女の名を一躍有名にしたのは、ロサンゼルスのダウンタウン、 ガーメント地区の洋裁工場で働く女性たちの葛藤を描いたインディペンデント映画 『Real Women Have Curves (原題)』。 SeeHer賞とは、seeher.comという、ジェンダーの不平等をなくすために、マーケティング・メディアやテレビ、映画業界などに登場する女性や少女の描かれ方を改善するミッションを掲げる女性支援団体に由来する賞。クリティクス・チョイスではSeeHer賞を毎年1人選び、既存のステレオタイプにとらわれず、さまざまな女性像をスクリーンで演じた女優に授与している。日本はワールド・エコノミック・フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャップ・リポートで146カ国中125位と先進国としての位置はとても低い。いつか、このSeeHer賞を日本出身の女優が受賞する日が来てほしいと思う。
「BEEF/ビーフ ~逆上~」と「ザ・ディプロマット」シリーズ
女優兼プロデューサーという役どころで活躍した女優は配信シリーズでも多く、リミテッドシリーズで主演女優賞を受賞したNetflix「BEEF/ビーフ ~逆上~」のアリ・ウォン(このコラムでも紹介済)やドラマ・シリーズでノミネートされていた「ザ・ディプロマット」シリーズの女優ケリー・ラッセルなどの活躍も注目されている。 『オッペンハイマー』と同カテゴリーで競ったヨルゴス・ランティモス監督の映画 『哀れなるものたち』。主演女優のエマ・ストーンは、『ラ・ラ・ランド』でも、すてきな女優だったが、今回は体当たり演技で、女優として大きく成長している。監督の前作『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞主演女優賞に輝いたオリヴィア・コールマンを覚えている人も多いと思うが、同映画で助演、女王に食らいつくおてんば娘役を演じていたのがエマ・ストーン。今回、プロデューサーとして監督ヨルゴス・ランティモス、脚本家トニー・マクナマラと再度タッグを組んだ映画『哀れなるものたち』は、映画全体がダリの絵画を動画にしたような奇妙なビジュアル。最初の白黒映像から色とりどりのメルヘンな世界観へ展開させる独特の創造性は見事。ランティモス監督の映画『哀れなるものたち』は 女性版フランケンシュタインの物語。原作はスコットランド人作家アラスター・グレイの異色小説「哀れなるものたち」。自殺した女性の体を天才医師が蘇生し、身ごもっていた子供の脳の移植で大人の赤子として生まれ変わる女性ベラの物語。ベラはピノキオとフランス人形を半分で割ったような美しい女性で、ぎこちない動きをするものの、美貌溢れるベラに魅了された男性たちの性欲の虜になっていく。 しかし、彼女が出会う男性は最低の男たちだらけ。ベラは自らの性に目覚めながらも、動物と人間、男と女とは、と自らの目で世の中を知るために、出会ったばかりの弁護士と旅にでる。ある意味、映画 『バービー』の人形像とどこか似ていて、自らが生まれた世界に違和感を持ち、その不平等さに心から痛みを感じるフェミニスト。自殺に追い込まれた、生まれ変わる前の自分の過去を検証。彼女を死に陥れた問題に自らメスを入れていくまでに行動するエマ・ ストーンの演技は目が離せない。どちらかというと、コメディよりホラーのような映像も多いため、映画館で缶詰にされて鑑賞することをお勧めする。人間の臓器がインスピレーションとなった衣装など、そのプロダクション・デザインの豪華さも圧巻である。