<インド>『ゆるい』国 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
銀行のキャッシュマシーンのドアの外、路上においた椅子にすわって眠りこけているのは、こともあろうにこの銀行の警備員だった。日本やアメリカなら「職務怠慢!」と問題になりそうなこんな光景も、インドではとりたてて珍しくもない。総じて、あまり張り切らず、テキトーに「ゆるい」のがインドのいいところなのだ。しかし、時々起こるテロ事件など、徐々に物騒になっていく時代の流れか、そういう「ゆるさ」も少しずつ変わってきているようだ。ショッピングモールや新興のハイテクパークなどでは、カメラを構えたとたんに警備員がとんできて視界を遮ってくるし、ムンバイの街中の観光地でも、公道にも関わらず三脚をたてての撮影が禁止になった。軍事施設や企業秘密のある場所でもないし、写真を撮ってどんな不都合があるのか理解できないが、同じ場所でも素人が携帯電話でスナップする分にはなんのお咎めもないのだから、こんな矛盾に余計に腹が立ってくる。 そんなことを常々感じていたのだが、最近、日本のカメラマン仲間から、愚痴をきかされた。今は個人のプライバシー問題がうるさくて、ストリート・フォトさえままならないという。それを思えば、路上でカメラをもった外国人をみればポーズをとってくる無邪気なインド人相手のこの国は、まだまだ仕事のしやすい楽園なのかもしれないな。 (2013年1月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.