歴代首相4人輩出の「保守王国」群馬に異変、何が起きた? 前橋市長選で現職完敗、衝撃の背景探る
狙いは「共産党アレルギー」に敏感な保守層を小川氏支援から引きはがすためだ。「一定の効果はあった」(山本陣営)ものの、保守層をつなぎとめる決定打とならなかった。 一方、小川陣営の戦略は対照的だった。保守層を含む幅広い支持層への浸透を見据え、自民党批判を抑制。派閥の裏金事件への言及を控えた。 代わりに小川氏は、山本市政3期目に起きた前橋市の元副市長による官製談合事件に触れ「クリーンな市政への刷新」を主張。「初の女性市長誕生」をスローガンに、子育て支援施策の拡充などを訴えた。 この戦略が奏功し、有権者の中には山本氏の会合へ参加しつつ、小川氏に投票した「面従腹背」(小川陣営)の人もいたという。2月4日夜、小川氏の初当選が確実になると、陣営幹部はこう述べ、胸を張った。「われわれの作戦勝ちだ」 ▽低投票率でも圧勝、地殻変動か 今回の前橋市長選は投開票の結果、小川氏6万0486票、山本氏4万6387票。小川氏が山本氏に約1万4千票差をつけ圧勝した。とはいえ、有権者の関心が高まったわけでなかった。
投票率は39・39%。前回の市長選より3・77ポイント下回った。一般的に低投票率なら、現職の山本氏が優勢となるはずだ。なぜなら3期12年の実績と組織力があるからだ。 2月14日。山本氏が市長として最後となる記者会見に臨んだ。会見の終盤、報道陣から問われるわけでもなく、こう切り出した。「中央政界も自己浄化できていない。身を切る痛みを示さないと、この地殻変動は止まらない」 発言は自民党派閥の裏金事件を念頭に、今回の市長選への影響を示唆したとみられる。 自民党群馬県連幹事長で県議の井下泰伸氏も、自民党が惨敗し政権から転落した2009年衆院選を引き合いに「謙虚に声を聞く姿勢が有権者に伝わらなければならない。政権交代で学んだはずだ」と警告する。 ▽「王国」の不敗神話が崩れる 山本氏の敗因分析は他にもある。群馬県の山本一太知事は自身のブログで、支援した山本陣営に「油断と慢心」があったと指摘。自民、公明両党の推薦を取り付けた直後から「特に強まった」と書き込んだ。
自民党県連幹部は「有権者が10年超も続く現市政に閉塞感を抱いた」と総括する。 国民の政治不信が自民党派閥の裏金事件で高まり、岸田内閣の支持率は低迷したままだ。自民党筋は来たる国政選挙を意識し、警戒を強める。「保守地盤で不敗神話が崩れた。『前橋ショック』が全国各地で生じかねない」 小川氏は2月28日、新市長に就任した。1892年の市制施行以来、初めての女性市長となった。