非凡なまでに平凡な男・安部礼司。 漫画版の魅力とは? 普通の毎日が愛おしく思えるオフィスコメディ【書評】
物語で描かれる安部礼司の毎日は確かに平凡だ。しかし平凡であることは、変わり映えがない、何もドラマがないということとイコールでは決してない。彼と同じように平凡な一凡人の私たちの毎日でも、それは同じである。 毎日決まった時間に起きて、毎日決まった時間に毎日決まった職場へ出社する。そんな生活を送る人が、おそらくこの社会の大多数だろう。しかし働いていても、やることなすことすべてがまるでコピー&ペーストしたようにまったく同じ、という人は、むしろこの世の中に極めて少ないのではないだろうか。
昨日と違うことはなんだろう。明日は今日とどう変わるんだろう。大まかな流れは同じ普通の毎日でも、自分ではない誰かと関わる日々が続く限り、誰しも必ず大なり小なりのドラマが1日のあちこちに散らばっている。 何もないと思うなら、小さな行動で自分からドラマを起こしてみてもいい。普段通らない道で会社から帰ってみる。いつもと違う時間帯にコンビニへ行く。滅多に買わない飲み物を自販機で買う。日頃あまり接点のない人に、敢えて会話を振ってみる。些細なきっかけで、何かが起こるかも知れないし、起こらないかもしれない。何も起こらなくともその時点ですでに、間違いなく昨日とまったく同じ日にはなっていないはずだ。
私たちと同じ平凡な日常を描くオフィスドラマを通して、普通であることの尊さに気づけたり、普通に生きる人々の背中を押してくれる。そんな安部礼司の物語をラジオですでに知っている人も、まだ知らない人も、ぜひマンガという形態を通じて安部礼司の魅力に触れてはいかが。 文=ネゴト/ 曽我美なつめ