中国の激安ネット通販SHEINが「10兆円」IPOか、習近平の政策に見事合致?ユニクロ「盗用」疑惑も…!
● SHEIN工場労働者の基本給は約5万円 「デザイン盗用」疑惑でユニクロに訴えられる 中国は現在、政策レベルで「中国ブランド」づくりに取り組んでいる。3月初旬に公表された「計画報告」では、「『国貨潮品(国産ブランドのトレント゛商品)』などの新たな消費成長分野を積極的に育成」「2024 年『中国ブランドの日』 の一連のイベントの開催にしっかり取り組む 」と述べている。 さらに、第8回「中国ブランドの日」期間中の5月10日、国家発展改革委員会の伍浩・秘書長(事務局長)が、「発展改革委員会は『第15次5カ年計画』ブランドの質の高い発展の研究を開始し、ブランドづくりが製造強国、品質強国などの国家重大戦略に深く溶け込むよう推進する」と述べた。 SHEINの戦略は、中国政府が目指す「デジタル経済の発展」「中国のブランドづくり」という目標に、見事に合致している。 ただ、SHEINの戦略にも問題がないというわけではない。 まず、SHEINの低価格路線はZ世代から絶大な支持を得る一方、一定の利益を確保するために当然ながらコストを削る必要があり、そのしわ寄せは現場の労働者にいく。SHEINの工場の労働者の基本給は2400元(約5万2500円)で、平均生活賃金である約6500元を大幅に下回っているという報道もある。商品の低価格実現のために、現場労働者の待遇を抑えることは、中国に限った話ではない。が、それではSHEINが掲げる「持続可能な経営」の理念に反するだろう。 次に、小ロット生産を支えるために、現場の労働者が長時間労働をしいられることだ。報道によると、毎週の労働時間が75時間で、毎日3交替で働き、休みは毎月1日のみだという。これでは、持続可能な経営に必要な「働く人=財産」という発想が、まるでない。 さらに、SHEINには「デザイン盗用」疑惑も多々あり、「モラルに反する企業」といったレッテルを払拭する必要がある。例えば、ユニクロは23年12月、SHEIN JAPANを含むSHEIN傘下の3社を東京地裁に提訴した。理由は、SHEINが販売する模倣品の形態が自社製品とよく似ていたからだ。SHEINの価値観の1つに「革新」が挙げられているが、他社の製品デザインを盗用していては、元も子もない。 このようにいくつかの問題はあるが、消費者のニーズをリアルタイムで把握し、より良い製品を提供するビジネスモデルは、中国の「新時代」の小売形態であることは間違いない。 不動産バブルの崩壊などネガティブなイメージが先行する最近の中国経済だが、SHEINによる海外IPOへの挑戦のように、ポジティブな兆しがあることも忘れてはならない。
吉田陽介