源流から河口まで3千キロ 「大インダス」を約30年取材 梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞の写真家船尾修さんが描く暮らしの原点
チベットからインド、パキスタン、アフガニスタンまで、インダス川流域での約30年間にわたる取材を「大インダス世界への旅」(彩流社)として本にまとめた。「源流から河口まで3千キロに及ぶ多様な世界を立体的に伝えられた」と自負。民族・文化人類学者の梅棹忠夫さん(1920~2010)にちなんで優れた探検文学に贈られる「第13回梅棹忠夫・山と探検文学賞」に選ばれた。 冒険家の植村直己さんに憧れ、大学で探検部へ。その後は出版社勤めの傍ら、国内の登山隊に参加し、アジアやアフリカの高峰を踏破した。麓の人々の生活にも関心を持つようになり、独学でカメラの腕を磨き独立。世界各地の風土を雑誌寄稿や写真集で伝えてきた。 受賞作は源流域でチベット仏教の聖山とされるカン・リンポチェ(チベット)から、下流部のインダス文明の発祥地モヘンジョダロ(パキスタン)までを11章で紹介。少数民族のユニークな信仰、厳冬期に凍った川「氷の回廊」(インド)を危険を冒して移動する人たちなど、辺境のたくましい暮らしぶりを描いた。 2001年に東京から大分県・国東半島へ移住。寺の奥に鳥居があって仏様と神様を同列に扱い、独特の祭りを連綿と続けてきた、神仏習合の六郷満山(ろくごうまんざん)文化にもカメラを向けてきた。万物に霊魂が宿ると信じるアニミズム的な信仰や、谷筋を耕してきた小さな完結した暮らし。「遠く離れたインダス川流域と国東半島に共通点があり、人間の暮らしの原点が見える」 同県杵築市で田を耕しながら妻、娘2人と4人で暮らす。63歳。 (中村太郎)