「ぶいすぽっ!」をリードする姉妹コンビ 花芽すみれ、なずなの“多面的な魅力”を紐解く
現在のVTuberシーンにおいて、タレントの活躍する分野は日々拡がっている。そのなかで年々支持を強めているのがBrave groupが手がけるVirtual eSports Project「ぶいすぽっ!」である。 【動画】ぶいすぽっ!メンバーによる「Blessing」カバー 業界においてさまざまな趣向のプロジェクトが存在するなかで、「ぶいすぽっ!」が特色としているのは、eスポーツに特化した事務所であること。とくにFPSジャンルを得意とするメンバーが多く、なかには各タイトルにおける認定ランクで上位に食い込む者もいるほどだ。 現在所属するメンバー20人は昼夜問わずゲーム配信をおこない、プロジェクト内外で催される大型大会や企画へ参加するなど、ここ数年ですこしずつ存在感を示してきた。積極的な活動が徐々に実を結び、コラボ商品や商品広告にも起用されるようになっており、持ちうるタレントをフルに活かして活躍する場面が増えてきている。シーンをリードする「ホロライブ」「にじさんじ」にも劣らない魅力が、広く知られつつあるのだ。 4月2日は、「ぶいすぽっ!」がスタートする以前から現在まで活動をつづけ、今なおメンバーを引っ張り続ける姉妹・花芽すみれ/なずなの両名の誕生日である。そこで今回は、花芽すみれ/なずなにスポットライトを当てた記事を掲載することで、2人へのリスペクトを送りたいと思う。 ■世界で活躍するプロにも認められる実力 花芽すみれとFPS 初めに紹介するのは花芽すみれ。彼女は2018年9月21日に初ツイート、10月11日に初めての動画投稿をすると、直後の20日に『PUBG: BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)を使った開催された『第1回 VTuber最協決定戦』から本格的な活動をスタートした。 ちなみにこの第1回大会では、花芽すみれ・なずなの両名に加え、VGamingの一員であった幡多乃ちゃろ・青猫えいむ(現:BobSappAim)らとともに大会へ出場。みごとに優勝を果たしている。 当時の動画やSNS投稿は削除・非公開されているものも多く、現在から当時の彼女の活躍を知ることは難しいが、やはり『PUBG』を中心とした配信が多かったようだ。 デビューするキッカケとなったのは、運営スタッフが花芽すみれをスカウトしたことにある。すみれがなずなを誘い、2人揃ってのデビューとなったのだ。 また過去のSNS投稿によれば、「PUBGガールズバトルっていうのを見て、なずちゃんから出てみたいって言われたのがきっかけ」とも綴っており、プロのFPSシーンへの憧れはデビュー当初から持ち合わせていたことがわかる。 デビューから6年が経過し、現在では「ぶいすぽっ!」の最年長メンバーとして活動をつづけている花芽すみれだが、彼女の魅力についてあらためて振り返ってみよう。 「ぶいすぽっ!」といえば、『PUBG』『Apex Legends』『VALORANT』などのバトルロワイヤルゲーム/FPSゲームにフォーカスに置いたゲーム配信をし、その他のゲームでも見どころの多いプレイを見せてくれる“ゲーム強者”というイメージを持つ方が多いだろう。 花芽すみれは『Apex Legends』でマスターランク帯の実力を持っており、『PUBG』と同じく、真正面から敵をなぎ倒していくシーンを連発してきた。『VTuber最協決定戦』『Crazy Raccoon Cup』など様々なイベントに出場し、優勝含めて上位入賞を何度も果たしてきた。 2023年1月下旬に開催された『第10回 Crazy Raccoon Cup』では渋谷ハル、不破湊とともにチームを結成して大会へ臨むこととなる。そのなかで、コーチを務めたFNAITC所属のプロ選手・YukaFと練習をするなかで射撃練習場で打ち合うことになった。 YukaFは国内外から高い評価を受ける世界的なプレイヤーだ。そんな彼との1vs1の打ち合いということで、いちど倒せれば御の字だろうと誰しもが思うなか、大方の予想に反してすみれがYukaFを撃ち倒すシーンが続いたのだ。 「強いですね! ALGS代わりに出ますか?」とYukaFが口にすると、このときの配信クリップや切り抜き動画が広まり、FNATIC JAPAN公式が取り上げる事態に。このときFNATICは2023年2月にイギリスで開催予定だった「Apex Legends Global Series Year3: Split 1 Playoffs」を直前に控えており、その世界大会決勝へ誘われたのだ。 こうしてジョークのひとつとして広まったわけだが、会話の弾みで1vs1の撃ち合いをすることになったとはいえ、キーボードとマウスを駆使した世界屈指のキャラコンをしてくるYukaFの動きに対応し、互角の勝負を繰り広げたこと自体は、紛れもない事実である。 ■「ぶいすぽっ!」の風紀委員としての顔も持つ花芽すみれ 花芽すみれといえば、銀髪・ボブカット・色白なビジュアル、厚手で暖かそうな服に袖を通している姿を思い浮かべるファンが多いだろう。声が小さく細めの声、ウィスパー気味な声質ということもあり、どこか気が弱そうでシャイな印象がもたれがちだ。 その声色でもって雑談配信では柔和にリスナーに話しかけることが多いが、これがゲーム配信となると一転、気分が高まってワイワイと元気に話しはじめ、ボケ役となって積極的に会話を面白くしようと動くことも多い。 そんななかでも、彼女自身は一定のラインを超えないようにと自制した配信を心がけているようで、筆者が見ているなかでは不用意・不適当な言葉や発言は発することは少ないように感じられる。危ない言葉遣いでボケようとはしない、といったところであろうか。 こうした花芽すみれの意識と紐づいた企画配信といえば、『ぶいすぽ風紀チェック』であろう。多くのリスナーに見られるようになってきた「ぶいすぽっ!」メンバーの配信のなかから、「ちょっとこれはいかがなものか?」というシーンをリスナーから集め、彼女がセーフかアウトかを判断するという内容だ。 花芽すみれ個人のセンスとリスナー側のコメントをもとにしたエンタメ企画となっており、リスナーから送られてきたクリップや切り抜きに残されていたのは、様々なきわどい発言・セリフの数々。 その多くが狙って笑いを取りにいったパターンが多く、悪ノリで乗っかってより大きく広げてしまったもの、はからずも噛んでしまったり間違ってしまったものばかり。「ぶいすぽっ!」メンバーが日頃見せている表情・面白シーンを集めた内容として秀逸な企画配信である。 一方で、争い事を好まない繊細な一面もある。昨年大きな盛り上がりを見せた『VCR GTA』に参加された際には、「ゲームの世界観上しょうがないとは思うけども、みんな怖かった」「配信終わった後、ちょっと泣きそうになって。それが面白いと思う人もいるだろうけど、すみれはちょっとのんびりと平和にやりたい」とリスナーに伝え、1日目でやめてしまったことがある。初回開催だったこともあり、参加者も前のめりかつ殺伐としており、その空気に大きな戸惑いを感じてしまったのだという。 その後はリベンジとばかりに『Grand Theft Auto V』を使ったサーバー企画「ストグラ」に参加、より平和で穏やかなコミュニティに惹かれ、救急隊員として活動するようになった。 犯罪行為には手を染めないと強く誓い、患者との別れ際には「お大事に~」と添えるのを忘れない。彼女の優しさ・ピースフルな性格が前面に出ていたように見える。 2回目の開催となった『VCR GTA2』に参加した際には、救急隊のチュートリアル兼サポート役を担い、途中からは警察へと転じて、新人警察官として街を奔走。「みんな怖かった」と語ってやめてしまった前回とは違い、さまざまに経験を積んだ彼女は、無事楽しむことができたのだった。 そんな常識的な一面を持つ彼女だが、独特のワードセンスや感性といった変わった側面も持ち合わせており、ときには尖ったエピソードを披露することも。 そのなかで最もインパクトがあるエピソードといえば、彼女の“とある伝説”が原因で作られた「ぶいすぽっ!」のルール、「Uber Eats禁止令」だろう。 原因となったのは、彼女が『第1回 Crazy Raccoon Cup』の大事な場面でUber Eatsが届いてしまったこと。メンバーに許しをもらって食事を受け取り、急いで対戦に戻ると無事に勝利、大会優勝を勝ち取るということがあったのだ。 「大会中に出前を頼んで試合中に受け取る」という、これだけでもなかなかのエピソードなのだが、これから数年後、ぶいすぽっ!メンバーがとある大会に参加・配信をしていた際に、「18時以降に大会などに参加をしている際は、Uber Eatsを頼むことが禁止されている」ことが明らかになり、その原因となったのが花芽すみれであることも暴露されていた。 こういった笑えるシーンを生み出す一方で、自分が楽しむゲームや属するコミュニティと適度に距離を取りながら、本来の温和なパーソナリティが傷つくことないようにと活動を続けてきた花芽すみれ。 そのスタンスはぶいすぽっ!内外を通してもオリジナリティあるものとして広まっており、今後の活躍・活動でも、彼女の一挙手一投足は注目を集めるだろう。 ■ゲームでも、事務所でもIGL みんなのまとめ役・花芽なずな つづいて紹介するのは花芽姉妹の妹、花芽なずなだ。 デビューから何度となく「2人(すみれ/なずな)は本当の姉妹ですか?」という類の質問や投稿があったようで、2021年5月末に「義理の双子であり、そのことを運営スタッフに隠してデビューした」と明言。どちらが姉/妹となるかについては「じゃんけんで決めた」と冗談めかして話している。 花芽なずなもすみれと同じく、2018年9月21日にSNSに初投稿し、10月11日に動画を投稿。10月20日に開催された『第1回 VTuber最協決定戦』から本格的な活動をスタートした。 当時は「ぶいすぽっ!」どころか、「Lupinus Virtual Games」も結成されていない頃であったが、なずなは運営スタッフ、姉・すみれとともに活動をスタート。『PUBG』のプレイ動画・配信を継続的していくこととなる。そのうちのいくつかは現在でも視聴することができ、当時の彼女らを知れる貴重な内容となっている。 現在のシーンのなかでもゲームセンス・FPSセンスはやはり頭抜けており、もっとも好きなゲームとして『CS:GO(Counter-Strike: Global Offensive)』を挙げている。『Apex Legends』ではダイヤモンドにとどまっているものの、『CS:GO』と似たタクティカルFPS『VALORANT』ではイモータル(上から2番目のランク)を獲得したしたこともあり、本人は謙遜するが一定以上の実力者として知られている。 彼女を特異たらしめているのは、FPS経験の深さからくる器用さとゲームIQの高さにあるだろう。数多あるFPSゲームを一定時間・レベルでプレイしてきたこともあり、TPS/FPSといった視点の違い・ゲーム性・銃の反動や物理エンジンの違いなど、全くプレイ感の異なるゲームであっても、少し時間をおけばすぐにコツを掴んでしまえる。 そんな彼女の経験・センスを十二分に活かした企画といえば、「FPSゲーム全部勝つまで終われません」という耐久配信であろう。 内容は単純明快で、これまで自身が経験してきたFPSゲームをプレイし、全てのゲームでチャンピオン(1位/勝利など)を獲得するまで配信を終われないというものだ。 これまで3度にわたって催されている企画で、初回と2回目は『Apex Legends』『PUBG』『VALORANT』『CS:GO』『Rainbow Six Siege』の5作品でプレイし、3回目となった2023年2月3日の配信では『Overwatch 2』『CoD: War Zone 2.0』『CoD: Modern Warfare II』の3作品が加わり、計8作品をプレイした。 時にはぶいすぽっ!メンバーのヘルプを借りつつ、いずれの配信でも全ゲームでチャンピオン/勝利で終わらせており、もちろん途中ギブアップをしたことはない。 長くプレイしていても集中力を切らすことなく次々と勝利を飾っていく内容は、さながら“FPSゲームトライアスロン”といってもいい。他のぶいすぽっ!メンバーやストリーマーが同じようにプレイしても、順調に1位をゲットするのも大変ではないだろうか。彼女のゲームセンスの高さや来歴を知るには良い内容であろう。 そんな花芽なずなというと、「可愛い担当」というイメージ・自称を思い出すファンが多いだろう。黒髪にピンクのインナーカラーをして、桃色の服を身にまとう。たしかに彼女は「可愛い担当」を名乗るにふさわしいかわいい系の容姿をしている。 また彼女は後輩たちから「なずちゃん」「なずぴ」と、砕けた呼び方で慕われており、上下関係を感じさせることはあまりない。こうした他メンバーとの距離感については、普段の行動も大いに影響を与えているだろう。 配信で他メンバーとコラボする際は、テキトーな会話と受け答えをしたり、ちょっとしたことで突っかかってみたりなど、茶目っ気ある言動で周囲を振り回すことが多い。後輩である一ノ瀬うるはや橘ひなのからは「うぜぇ!」「ふざけんな!」と冗談交じりに一喝されることもしばしば。これも彼女なりの後輩とのコミュニケーション術なのだろう。 ただ、これが仲の良いストリーマーの前でも飛び出すことがあるため、彼女を知るストリーマーファンのなかには、「やんちゃで可愛らしい」を飛び越え、「花芽すみれはヤバい」という印象を持っているファンやリスナーもいるかもしれない。 そんな彼女が姉・すみれと一緒になると、阿吽の呼吸で周囲のメンバーを振り回しつづけ、2人の空気感にどんどん巻き込んでしまうという、ある意味で恐ろしいコンビとなる。無茶な話題・フリを交互に出し合いつつ、相手の出方をみながらアレコレと会話をコントロールしていく流れは、特に『Apex Legands』や『VALORANT』でのコラボ配信でよく見られたシーンだ。 やんちゃで可愛らしいイメージが持たれがちな花芽なずなだが、一方で彼女の配信をしっかりと追いかけているファンからすれば、「真面目さ」「まとめ役」という、前述のような評価からは対極に位置する人物像もご存じのはずだ。 「Lupinus Virtual Game」ではまとめ役となり、多くのゲームでIGL(イン・ゲーム・リーダー)を務めることが多かった彼女。活動の初期から2020年ごろまでは、グッズの梱包や送付、ファンレターの整理といった、本来であれば裏方のスタッフがするような作業をこなしていた時期もあったといい、「ぶいすぽっ!というグループをどのように運営していくか」「全体をどのように動かそう」という、運営目線で思考をする機会が比較的多かったようだ。 そうした思考、向き合い方を持って活動をしているおかげか、おちゃらけた態度で周囲をイジりつつも、状況や関係性を見つつ自分の意見や狙いを発信することが多く、責任感の強さやリーダーシップの強さを感じられるシーンも多い。 多くのことを抱える彼女だからこそ、ときに考えすぎてしまった結果空回りしてしまうこともあるが、「どうすれば集団・社会・コミュニティがフレンドリーかつ心地よい場所になるか?」とさまざまに動く姿に、ある種の善人性を読み解くファンも少なくないだろう。 ■ロス・サントスで過ごす花芽なずなと、にじみ出る善人性 じつは花芽なずなは姉・すみれ以上に『VCR GTA』『ストグラ』『VCR GTA2』にハマったのだが、そこでは彼女の善人性が滲み出ていたように思う。 これまでFPSゲームを中心にプレイしてきていたこともあり、『Grand Theft Auto V』は初プレイだったわけだが、ゲーム内の役職は警察をチョイスした。 同作品がかつて熱心に取り組んでいた『PUBG』を始めとするTPSに近い感覚で射撃できることに加えて、「逮捕・勾留することができる」「街の中をパトロールする」「街に住むプレイヤーにまつわる書類をまとめる」など、様々なプレイ内容が彼女の心をくすぐったようで、『VCR GTA』では警察官として東へ西へと動き回る姿が印象的であった。 つづく『VCR GTA2』では警察官からギャングへ別の立場でプレイしようとしたが、「犯罪ができない」「どうしても警察の心情が頭をよぎってしまう」とのことで、ふたたび警察官へと戻ることに。 イレギュラーな方向転換だったこともあり、なずなは配信冒頭にしっかりと時間を設け、リスナーに向けていきさつを語った。その姿・内容から、彼女が持つ真面目な一面や善人性を見つけるのは容易いだろう。 それ以前まではFPSゲームを中心に配信していた彼女だったが、同企画の影響もあり2023年後半以降はすっかり『ストグラ』の住人となっていった。2024年に入ってからぶいすぽっ!メンバーとコラボした際には、「なずちゃんとゲームするの久しぶりすぎる」と言われるほどだ。 デビューから現在に至るまで、ぶいすぽっ!を引っ張ってきた花芽すみれ・なずな姉妹。配信上ではノリの良さと茶目っ気を活かして周囲を惑わせることが多いが、場面によっては良識を持った人格者へと変わる点で、ふたりは非常に良く似ている。 花芽すみれは「常人のフリをした狂人」と言われることがあるが、花芽姉妹のこうした二面性を踏まえれば「天使と小悪魔が表裏一体となっている」と評することもできるだろう。 もちろん配信の内容や伝えたいメッセージ・周囲との関係などを踏まえて、意識的にスイッチしているのは言うまでもないだろう。だからこそ、ぶいすぽっ!の他メンバーからも大いに信頼されているのだ。そしてそれは大きな魅力となり、リスナーを惹きつけてやまない。 最後に、とある配信のなかで花芽なずなが「もしも5年前にもどっても配信活動をするか」というリスナーのコメントに返した言葉を取り上げ、本稿の締めくくりとしたい。 「(配信活動を)全然するよ。5年前に戻っても、すーちゃんと始めるよ、『ぶいすぽっ!』を。それはもう100%そうだよ。個人勢という選択肢はない。『ぶいすぽっ!』でデビューしないわけがないよ」
草野虹