老いた親の経営する幼児教室、継ぐ?継がない? 悶々とする子ども、「七田式」の新たな試み ~全3回の3
幼児教育のメソッド「七田式」。父の七田眞(しちだ・まこと)氏(1929-2009)が興した「しちだ・教育研究所」(島根県江津市)を24歳で社長となって引き継ぎ、発展させた息子の七田厚氏に、各地の幼児教室を舞台とした新たな試みや次世代への事業承継について聞いた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆「イチ抜けた」では済まなくなった
―当初は会社を継ぐ気がなかったけれど、翻って承継を決意した理由は何でしょうか。 一言で言うと、私がやるしかないだろうと。 学生時代から手伝ってきて、今さらイチ抜けた、というわけには行きません。 友人たちが七田式の教材を見て「なんだ、お前のとこの商品は」って言われたくないという意地もありました。 でも、始めてからは「辞めたい」と言ったことはありません。 若い時は、「将来は、自分のやりたいことをする」という思いはありましたが、自社ビルを建てたり、結婚したりするうち、迷いはなくなりました。20代ってやっぱり心がうろうろするんですね。 うちは教育事業ですが、教育の中身を担当する父、教材化して売り上げを作っていく私の会社、教室を広げていく会社があり、最も伸びるのは三位一体で機能していた時です。 だから、父が亡くなった後は、私が教育の部分をやらなければいけない。 その時、父が遺した167冊の著書が非常に役立ちました。 私も、父の理念を踏襲した本を何冊か書きましたので、同じように将来息子たちの役に立てばいいと思っています。 親が敷いたレールに乗ることには抵抗があったけれど、実はレールじゃなくてステージだったと気が付きました。 親が用意したステージで、今存分に演じることができています。 お父さん、ステージを残してくれてありがとう、と思います。 ―今後の事業承継についてはどのようにお考えでしょうか。 長男が入社8年目で、今、専務として教育全般の責任者をさせています。 私は教室現場を経験しないまま社長になってしまったので、息子にはまず教室の現場からやらせました。 長男は継ぐ気持ちは持っており、大学は経営学部を出ましたが、まだ任せられる状況ではないと思っています。 次男は中小企業診断士を目指して勉強中です。 弊社の社外取締役に、司法書士の資格も持っていて法務に強い人材がいるので、契約事を任せています。 ただ、社外取締役は50代なので、次男は「その後は自分がしっかりしなければ」と法務の勉強を一生懸命しているようです。 私自身が何でもできるわけではありません。父亡き後は、能力を持った人材の力を合わせて苦境を乗り切ってきました。 一緒に戦う仲間がついて来てくれる人間的魅力を、息子たちに身につけてほしいです。 ―事業承継を成功させるポイントや、理想的なあり方についてどう考えますか。 私が継いだ時は社員6人の無名の会社で、プレッシャーもなかったんですが、現在は社員100名です。 息子たちは状況が違うと思います。 まず、自分で小さい会社を経営してみるのがいいかと思います。 否応なしにいろんなことを経験しますから。 二世経営者の研修に出すのも一つですが、やっぱり経営する立場になってみないと分からない部分はあります。 大きい会社の前に、リハーサル的に小さくても経営者の立場を経験するのも一つの方法です。