「レフェリーがカミソリを」…大ヒット作となった『極悪女王』が描かなかった〝最後の一線〟とは?
リアルなプロレスシーンを再現
9月19日に全世界に独身配信されたNetflix(以下、ネトフリ)のオリジナルドラマシリーズ『極悪女王』は、日本の「Netflix週間TOP10(シリーズ)」でV3を達成し、その後も人気は衰えていない。 【思わず二度見】すごい…'80年代風モードファッションでキメた『極悪女王』3人娘 同作は、今年3月をもって放送作家業・脚本業から引退することを発表した鈴木おさむ氏(52)の企画・脚本・プロデュースで、総監督を『凶悪』(’13年)、『孤狼の血』シリーズ、11月1日に公開を控えた『十一人の賊軍』などで知られる映画監督の白石和彌氏(49)が務めた。’80年代当時『全日本女子プロレス(全女)』に所属し、〝最恐ヒール〟として女子プロレスブームのけん引役となったダンプ松本(63)の知られざる半生が描かれている。 レスラー役の俳優陣はオーディションで選ばれ、ダンプ役はお笑いタレントのゆりやんレトリィバァ(33)、ダンプとし烈な抗争を繰り広げた人気タッグチーム、クラッシュ・ギャルズの長与千種(59)役を唐田えりか(27)、ライオネス飛鳥(61)役を剛力彩芽(32)らが演じた。さらに、俳優陣は撮影期間まで約2年にわたって、作品のプロレススーパーバイザーを務めた長与が主宰する団体『Marvelous』の道場でプロレスの特訓を受け、レスラーらしい肉体改造を行ったこともあって、リアルなプロレスシーンが再現されたことも人気の要因となった。 「鈴木おさむさんと白石監督は全女をリアルタイムで観戦していた世代だったので、レスラーのキャスト陣はその人に雰囲気や体形が似ているキャストを厳選しました。役作りは、栄養やトレーニングの管理まで行うことから役作りをさせるネトフリでないと実現しなかったでしょう。 作品のあまりのリアルさに、ダンプさん、長与さん、ジャガー横田さん(63)、ブル中野さん(56)ら、登場したレスラーたちは作品のみならず、自身の役を演じた俳優陣をことごとく絶賛しています」(元プロレス誌記者) 同シリーズでは、華やかな表舞台のみならず、プロレスの裏側も描かれている。その最たる例が、最初から試合の結果が「台本」として決まっている「ブック」という単語だ。 「劇中では、当時〝全女最強〟と言われていたシングル王者のジャガーさんが、全女が会社として推していたクラッシュに不快感を覚え、幹部に『クラッシュとブックなしでやらせてよ』と詰め寄る場面がありました。 しかし、ジャガーさんは自身のYouTubeで《ビックリしたわ、私。この世界に入って50年で1回もそんなの聞いたことないよ》と、『ブック』という言葉について否定しています。生涯現役を宣言しているジャガーさんなりの矜持なのでしょう。そもそも、ジャガーさんはクラッシュ、ダンプら後輩には負けたことがないため、《後輩に(フォールを)取られたことがないよ!》と劇中の内容を否定していました」(同前) ◆「大流血」のカラクリとは そんな同シリーズの見どころの試合となったのが、今でも語りつがれる1985年8月28日に大阪城ホールで行われた、ダンプと長与の完全決着ルールの「敗者髪切りデスマッチ」だ。 実際の試合は、ダンプが凶器攻撃の限りを尽くして長与を大流血に追い込んでKO勝ちを収めたものの、あまりにも残忍な流血シーンに中継したフジテレビ系の関西テレビ(カンテレ)には抗議が殺到。カンテレは急遽、中継を打ち切ることになったという試合だ。『極悪女王』の中でもその様子はかなりリアルに再現されていたが、それでも制作陣が〝最後の一線〟を越えなかったことがヒットにつながったのではないかと、あるプロレス関係者は指摘する。 「実は普通に試合をしている限り、そんなに派手に流血することはありません。ではなぜ、あんなに流血するのか。故アントニオ猪木さんの全盛期に『新日本プロレス』のレフェリーやマッチメーカーを務めたミスター高橋氏(83)がその裏側を、著書『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』で明かしていました。 同書は新日を辞める際にいろいろもめた結果の書籍でしたが、その内容はあまりにも衝撃的でした。流血を『ジュース』と呼んでいたことを明かし、普通であれば『あんなきれいに血が流れるはずがない』、『レスラーの額から出るジュースは、(レフェリーが)カミソリの刃でサクっと切り裂いて出す』などと詳細に流血に至る過程を暴露していたのです。 『ブック』に関しては、レスラーたちの葛藤や因縁を描く上でストーリー上必要な要素でしたが、流血のからくりは余計な要素だという判断だったのでしょう。もし、そこまで〝リアル〟を追求してしまえば、逆に視聴者は試合シーンにそこまで感情移入できなかったかもしれません。『流血はガチ』という演出で、制作陣がそこまで踏み込まなかったこともヒットの一因だと思います」(プロレス業界関係者) 「リアル」と「演出」のせめぎ合いが感動を生むのは、ドラマにもプロレスにも共通していることなのかもしれない。 ※「FRIDAYデジタル」では、皆様からの情報提供・タレコミをお待ちしています。下記の情報提供フォームまたは公式Xまで情報をお寄せ下さい。 情報提供フォーム:https://friday.kodansha.co.jp/tips 公式X:https://twitter.com/FRIDAY_twit
FRIDAYデジタル