水俣病患者・被害者のマイク切断で大臣が謝罪 拭えない環境省の不誠実さ
表面上は当事者の声を聞く重要な機会だと言いながら、最後まで聞かなくても何も問題ないと考えていた。そんな環境省の不誠実で不遜な姿勢が露見したのが、5月1日に熊本県水俣市で行なわれた伊藤信太郎環境相らと水俣病患者・被害者との懇談の際、被害者側の発言中に環境省職員がマイクを切った問題だ。 5月1日の懇談には患者・被害者でつくる8団体が参加し、被害の深刻さや問題の解決を訴えた。だが1団体3分の持ち時間を超える頃、司会の木内哲平氏(環境省特殊疾病対策室長)が発言者に注意を促すと、すぐにマイクが切られたのだ。二度目までは操作ミスや接続の不具合にも思われたが、三度目は意図的に切られたのが誰の目にも明らかだった。 水俣病患者連合副会長の松﨑重光さん(82歳)は昨年4月に79歳で苦しみながら未認定患者として亡くなった妻、悦子さんへの思いを、たどたどしいながらも一生懸命に読み上げていたが、持ち時間では話を終えられなかった。「お話をおまとめください」。木内室長が声をかけた直後、明らかにマイクが声を拾わなくなり、松﨑さんは大きく戸惑いをみせた。すかさず他の参加者から環境省を非難する声があがった。「切られた、スイッチが!」「(大臣が懇談冒頭に)話ば聞くって言うたがな!」 懇談直後、参加者に問い詰められた木内室長は謝罪しつつも「事務局の不手際」だと、意図せぬミスだったかのように繰り返した。しかし環境省がマイクを切ったのは、実際には非常に手際よく、意図的なものだった。同省が作成していた「水俣病関係団体との懇談シナリオ」には「〈3分でマイクオフ〉」と記されていたのだ。過去にそんな運用がされたことはなく、患者団体への説明もなかった。 環境相の対応もお粗末だった。懇談直後「私はマイクを切ったことを認識しておりません」と問題を放置した。環境相の責任としてその場で事実確認のうえ謝罪していれば、これほど大きな批判を受けなかっただろう。「マイク切り問題」は報道で大きく取り上げられ、批判を受けた伊藤環境相は、「私の判断」で1週間後の5月8日に現地を再訪して謝罪、さらに7月8日、10日、11日の3日間、現地で再懇談を余儀なくされた。 5月8日の再訪で伊藤環境相はまず懇談に参加した「水俣病被害者・支援者連絡会」6団体に謝罪。続いて市内の一般財団法人水俣病センター相思社で松﨑さんに謝罪し、悦子さんの位牌がある仏壇に深々と頭を下げた。被害者や支援者から「何十年も苦しんだ思いを、なぜ3分でしゃべれと言えるのか」「非常に懇談会が形骸化している」などの批判を受け、環境相は再懇談を約束し、帰京した。