【与党税制大綱決定】政治決着には疑問残る(12月21日)
2025年度の与党税制改正大綱で、焦点の「年収103万円の壁」引き上げは123万円にとどまった。国民民主党が求める178万円とした場合、兆円単位もの税収減が発生する。自治体の強まる懸念を見ても、非課税枠を一気に上げる副作用は大きいと言える。一方で、現行から20万円引き上げただけで、手取りがどれほど増えるか疑問の声も上がる。税制は国民の生活、経済と国家財政の基盤をなす。本来、政治の思惑を排した検討が必要だ。 年収の壁を巡る自民、公明両党と国民民主党間の交渉は、少数与党の微妙な立場を浮き彫りにした。国民民主党は非課税枠178万円への見直しを衆院選の公約に掲げ、過半数割れした与党に実現を迫った。与党側は「178万円を目指して来年から引き上げる」との文言で、先の補正予算案への国民民主党の賛成を手繰り寄せた。結局は123万円で落ち着かせる与党案に国民民主党は反発し、協議を打ち切った経緯がある。
そもそも、「目指す」との文言に、政治的な落としどころを探る含みがあるのは明らかだ。石破茂首相は「芸術的な表現だ」などと評価したとも伝わる。物価高に苦しむ国民の暮らしと真摯[しんし]に向き合い、国や地方の持続的な財政運営との細密な調整もした上で、はじき出した非課税枠の数字だったか、疑問も湧く。 178万円への引き上げ目標自体は引き続き検討されるようだが、今後の選挙や政局次第でどう進むかは見通せない。立憲民主党は社会保険料が発生する年収の壁への対応を独自の最優先課題に据えている。これらを含め幅広に議論を深めるべきだ。 防衛力強化の財源を巡り、所得税増税の開始時期決定を再び見送ったのも政治的判断に他ならない。財源の妥当性は別として、国民に正面から負担を求め、理解を得る姿勢は依然乏しい。 大学生年代の子どもを扶養する親の税負担軽減については、年収制限を103万円から150万円に引き上げるとした。アルバイトをしながら学業に励む学生を応援する意味では望ましい。とはいえ、労働時間が増え、本業の勉学に支障が出ては本末転倒だ。苦学する学生への支援は制限緩和だけでは十分と言えないだろう。(五十嵐稔)