NATO離脱をほのめかしてきたトランプが再選濃厚......。そうなったら世界と日本はどうなる?
2月10日(現地時間)、またもやトランプが国際社会を困惑させる爆弾発言を投下。「国防費が少ないNATOの加盟国は守らない!」と。毎度おなじみのマイクパフォーマンスかと思いきや、専門家たちは「そうではない」と冷や汗をかきながら本気で警鐘を鳴らす。どうやらこの発言が出てしまった時点で、もう世界のバランスは崩れ始めている!? 日本はいったいどうすればいいんだよ! ●NATO(北大西洋条約機構)とは? 第2次世界大戦後の冷戦の激化に伴い、1949年に設立された国際的な安全保障組織で、主な目的は、加盟国の集団防衛と軍事攻撃の抑止。現在は北米2ヵ国と欧州30ヵ国の計32ヵ国からなる。日本はNATOの加盟国ではないが、グローバルパートナーとして支援している。 * * * ■議会も離脱を危惧して阻止する法案を可決! 今年11月に迫った米大統領選挙に向けた支持者の集会で「応分の国防費を負担しないNATO(北大西洋条約機構)加盟国を、私は防衛しない。むしろ、好きに振る舞うようにロシアをけしかける」と言い放ったトランプ氏。 NATO軍事同盟の盟主・アメリカの前大統領で、有力な次期大統領候補でもあるトランプの発言だけに、欧州諸国やNATOのトップが強い不快感を表明しているが、大統領への返り咲きを狙うトランプ自身は、かねて再選したらNATOから離脱することを主張しているという。 2017年の大統領就任時には、米国主導で進めてきたTPP(環太平洋連携協定)からの離脱を宣言し、地球温暖化対策のパリ協定からも離脱するなど(その後21年にバイデン政権が復帰)国際協調よりも〝アメリカファースト〟を優先してきたトランプ。そんな彼の再選が実現したら、アメリカがNATOを離脱してしまう可能性はあるのか? 「これがトランプの本音なのか、それとも加盟国に国防費負担増を迫る脅し文句なのかは見解の分かれるところですが、私はトランプが再び大統領になれば、本気でNATO離脱を言い出す可能性はあると思います」 そう語るのは、米現代政治に詳しい国際政治学者で上智大学教授の前嶋和弘氏だ。 「その現実味を誰よりも心配しているのが、ほかならぬアメリカの議会です。すでに昨年、外交に関する権限を持つ上院が『もしトラ』(「もし、トランプが大統領に返り咲いたら」の略)に備えて、大統領の一存だけではNATOから脱退できなくするための法案を可決しました。 この動きには、上院の多数派を占める民主党だけでなく、安全保障問題に詳しく、前回の大統領選ではトランプと共和党の指名候補者争いを演じたマルコ・ルビオ上院議員なども賛同していますから、共和党でも真面目に安全保障問題を考えている人たちは『もしトラ』がアメリカのNATO脱退につながりかねない......という現実的な危機感があるのでしょう」 とはいえ、すでにこの法案が通っている以上、トランプが当選しても大統領の独断だけでNATOを脱退できないなら、別に問題ないのでは? 「実は、そうとも言えません。仮に議会の反対でNATOを脱退できなくても、アメリカの憲法上、大統領は『陸海空3軍の最高司令官』であり、外交や安全保障に関する直接的な権限が与えられています。 そのため、仮に加盟国が他国の攻撃を受けた際、アメリカが軍隊を投入するか否かを最終的に判断するのは大統領ですし、議会がNATO関連の予算や法案を通しても、トランプが『俺はサインしないよ』と署名を拒否すれば、すべてそこで止まってしまう。 ですから、NATO脱退ができないとしても、大統領になったトランプがNATOを骨抜きにしてしまうことは十分に可能でしょう。 実際、共和党の支持者の中にも、『NATO加盟国が自ら十分な軍事費の負担をせず、アメリカの軍事力にただ乗りしているのは許せない。アメリカがそうした国を守る必要はない』というトランプの主張を支持する人たちが増えているので、離脱せずともNATOの加盟国を助けないようにする可能性はあります」 それにしても、「ロシアをけしかける」という発言は、トランプの支持者としてもいきすぎでは? 彼がロシアやプーチン寄りの姿勢を隠さないことへの抵抗感はないの? 「以前なら共和党支持者といえば『反ソ連』『反ロシア』『反共産主義』が基本でしたが、最近はそれが『反リベラル』や『反左翼』にすっかり変質してしまったのです。 アメリカの俗語でWoke(ウォーク/目覚めた人たち)と呼ばれる『人権や多様性を尊重する意識高い系のリベラル』が彼らの新たな仮想敵。そのため、リベラルの敵である『プーチンのロシア』のほうが、トランプ支持者にとっては親近感や好感度が高いのだと思います」