年金改革、どこまで本気?/社会保障改革のざっくり解説
社会保障制度改革のうち、年金についてざっくり解説します。政府の社会保障制度改革国民会議の報告書を基にした法案が8月21日に閣議決定される見通しですが、同報告書は年金分野については重要な問題が先送りされた印象が否めません。 [図表] 社会保障プログラム法案の概要
支給年齢引き上げは「中長期的な課題」
たとえば、年金の支給開始年齢を現行の65歳から段階的に引き上げる問題については、「検討を速やかに開始しておく必要がある」としながら、この問題は雇用政策の見直しとも関連してくるため、「中長期的な課題」とするにとどめています。 年金の伸びを物価上昇率より抑える「マクロ経済スライド」を、デフレ下で実施するかどうかという問題も検討されましたが、物価上昇率の目標2%を掲げる安倍政権に配慮し「検討を行うことが必要」と表現が弱められています。 ちなみに「マクロ経済スライド」とは、年金給付水準を段階的に抑制するしくみで、その背景には世代間の公平を図るという狙いがあります。 現在の日本の状況は、年金を受け取る人数がどんどん増える一方で保険料を支払う現役世代の人数が減少しているため、保険料を徐々に引き上げると同時に、受け取る年金額を徐々に引き下げていかなければ、制度が維持できません。そこで年金額を抑えるために2004年の年金改正で導入されたのが、「マクロ経済スライド」です。 それ以前は、物価の伸びに応じて年金額の改定を行う「物価スライド制」が使われていました。しかしそれでは物価の上昇に応じて年金額も上昇してしまうため、マクロ経済スライドでは、賃金(物価)がある程度上昇したとき、一定率(スライド調整率)を差し引くことで年金額が増えすぎないよう調整します。ただデフレ下では発動しないというルールがあり、導入以降1度も発動されていません。その結果、年金給付水準は抑制されるどころか、むしろ上昇しています。
高所得者の課税を強化
今回の報告書では、高所得者への課税強化を行う一方で、非正規労働者への厚生年金適用拡大や免除制度の積極的活用などの未納対策の強化を行うなど、所得間格差の縮小にも言及しています。 しかし現実には、「議論の終盤が参院選とぶつかったことで有権者の離反を恐れた政権側から横やりが入り、踏み込み不足に終わったものも多い」(毎日新聞大阪版夕刊、8/2日付)という意見も上がっています。年金財政など制度の根幹にかかわる問題に対して「全体的に微修正にとどめ、『将来の制度体系』の議論は先送りした」(毎日新聞8/2付)とも指摘されています。 ※この記事は「社会保障改革のざっくり解説」シリーズの3回目で最終回です。1、2回目の記事は下の関連記事リンクからどうぞ。