23区の平均価格は“1億1483万円”…新築マンションブームで日本が滅ぶ理由
全住宅の3分の1が空き家になりかねない
過剰な住宅の戸数が解消される可能性はあるのか。このままでは望みはない。周知のとおり、日本は少子化にまったく歯止めがかかっておらず、2023年の出生数は前年から5.1%減少して75万8631人となった。 厚生労働省が統計を取りはじめた1899年以降、はじめて100万人の大台を割って97万6979人となり、このままでは日本が消滅するかのような衝撃が走ったのは2016年のことだった。それから6年しか経たない2022年に80万人の大台を割り、さらに底が抜けたように減り続けて、100万人の4分の3になってしまった。 想定をはるかに上回る速度で少子化が進んでいるわけが、昨年は婚姻数も48万9281組と、戦後最少なのはもちろん、90年ぶりの50万の大台を割り込んだ。婚姻数は出生数に直結するので、今後、さらに少子化が加速するに違いない。だからこそ、2024年度予算案に盛り込まれた児童手当の拡充のような小手先のばら撒きではない、骨太の少子化対策が急がれるが、その話はまたの機会に譲ろう。 仮に少子化対策が奏功しても、結果が出るには時間がかかる。当面は少子化が進み、世帯数も減り続けるのが確実である以上、日本の住宅戸数を増やさないことが肝要ではないだろうか。 だが、現実には新築マンションがブームで、あたらしい建設プロジェクトも目白押しだという。これでは空き家は増え続けるばかりで、減ることなどありえないだろう。事実、2033年に空き家の数は2150万個と、日本の全住宅の3戸に1戸におよぶという予測もある。 空き家が増えれば、治安等に不安が生じるのはもちろんだが、それだけではない。たとえば、住む人が減れば道路や水道、電気などのインフラの維持も困難になる。地域の活力そのものが低下するのはいうまでもない。
新築よりも空き家の活用を
それなのに、なぜマンションを新築し続けるのか。または、戸建てのための分譲地を開発し続けるのか。 日本は戦後、経済対策の柱に住宅建設を据え、今日もそれを変えていない。昨今も経済対策には、省エネ住宅取得に向けた支援や住宅ローン減税などが盛り込まれる。それは新築が前提だから、対策の恩恵に浴そうとする人たちは、空き家には目を向けない。 また、こうした経済対策は、デベロッパー や建築業者の収益と直結しており、彼らはあらたに土地を取得し、あらたに建てることを前提としている。そして、昨今のように建築コストが上昇すれば、高くても買い手がある都市部にマンションを新築する。既存の住宅やマンションを活かすという選択肢は、彼らのビジネスモデルのなかにはない。 だが、ほんとうはいまこそ、デベロッパーの発想の転換が必要である。新築物件にいくつもの世帯が吸収されるということは、いくつかの空き家が生まれることを意味する。それは既存のマンションや住宅街の住環境の悪化に直結する。少子化がこれほど急速である以上、この環境悪化も急速に進むだろう。都市部のマンションの人気はそのまま、それ以外の地域の劣化につながっているといっても、過言ではあるまい。 ヨーロッパの旧市街は、滅多なことがないかぎり、歴史的な景観を守るために新築が認められない。このため、建築業者といえば内装業者である。ただし、日本の住宅のリフォームよりもはるかに大胆にリフォームをする。極端な場合、外観だけ維持して内側はすっかり入れ替えてしまうのである。 日本でもこれまで新築主体だったデベロッパーの事業を、空き家が多いマンションのリノベーションや、住宅の再生に転換できないものだろうか。少子化および小世帯化が進むのが確実である以上、われわれは都市も郊外もコンパクトに利用していく必要がある。そうしないかぎり、勤労世代が減少すればインフラの維持もかなわなくなる。 いまは新築しないと利益が出ないのかもしれない。しかし、新築を重ねているかぎり日本が沈むことも、また、たしかである。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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