なぜ下士官までが極刑に 41人が死刑 石垣島事件の特殊要因は~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#47
法廷における陳述で事実認定を
(尾畑弁護人「最終弁論についての意見」より) <井上被告に対する各罪状項目に関する総括的意見>(注・分かりやすく要約) 「被告、井上乙彦に対する各罪状項目に記載された犯罪事実の認定について、これまで同被告が検察官に供述した検察官提出の証拠と、弁護側が提出した証拠と被告人が法廷で陳述した内容には相違点があり、この点に関しては、検察官側の取調べの際は宣誓をしておらず、法廷では宣誓して証言しており、検察側の取り調べはあらかじめ想定した筋書きに適合する様に事実をゆがめて被告の答弁を誘導する傾向が認められるが、法廷では公明正大に訊問と答弁が行われたこと等の点を鑑みると、井上被告の陳述は法廷における陳述をもって最も真実性の富めるものと認めざるを得ず、よって犯罪事実の認定は法廷における陳述をもってその根拠となすのが当然だ」 つまり、検察官側が提出した証拠は、「各々の被告は、命令はなく共同謀議で殺害に及んだ」という筋書きに沿うように録られたもので、井上大佐は「真実を述べる」という宣誓もしていない。一方、法廷で宣誓後、井上大佐が述べた「自分が命令した」という内容は真実性が高いので、こちらを事実認定の根拠にするべきという主張だ。 〈写真:尾畑義純弁護人の「最終弁論についての意見」(国立公文書館所蔵)〉
井上大佐も強制に基づき答弁
(尾畑弁護人「最終弁論についての意見」より) 「井上乙彦その他45名に対する戦犯事件のこれまでの推移を、判明する事実に基づいて考察すると、本件被告の多数に対して検察官側の取り調べは、相当腕力をもって被告の証言を強制し、被告人の自由意志に基づかずに、被告を答弁させた形跡があり、検察官側の取り調べの態度は、当法廷における裁判委員会の公明正大なる態度に比べて遺憾に感じられるが、被告井上乙彦もまた、その程度は軽いがこの種の強制に基づいて答弁した点があると認められる同被告の犯罪事実の認定に際してはこれらの点に考慮することを希望する」 〈写真:横浜軍事法廷(米国立公文書館所蔵)〉