アナログ時代のキャッシュレス決済は「名刺」ってマジか! トラブルだらけだった昔のタクシーの支払い方法
タクシーでもいまやキャッシュレス決済が当たり前
2024年5月29日深夜、埼玉県川口市でタクシー強盗事件が発生した。この事件を受け、メディアや筆者の周囲の人も、「いまどきキャッシュレス決済が当たり前だから、タクシーにはそんなに大金はないのでは?」という声が多かった。確かに、いまはタクシー内でさまざまな方法でキャッシュレス決済ができるようになったが、振り返るとそれ以前もキャッシュレス決済がなかったわけではなかった。 【画像】目の前のタクシーがいまどんな状態なのかすぐにわかるスーパーサイン 日本においてバブル経済が崩壊し、「失われた30年」と呼ばれる低成長時代に入っても、バブル経済のころの勢いはないものの、週後半の木曜日や金曜日には東京23区及び武蔵野市・三鷹市の営業区域だと、隔日勤務(連続20時間乗務)だと営収(営業収入)が10万円を超えるといった運転士も出るほど、稼ぎがグンと上がっていた。しかも、2000年代初頭あたりはクレジットカード決済が普及しはじめた時期であった。 しかし、当時は電波の受信状況があまり良くなく、場所によっては電波をひろうことができず、結果的に現金払いも余儀なくされることも多々あった。クレジットカード決済がある以外は、タクシーチケットが数少ない「キャッシュレス決済方法」であった。いまでは、タクシーアプリサービスに加盟しているタクシー事業者として乗務していれば、やり方次第で高営収は可能とされているが、そのなかで現金決済の割合はかなり低くなっているので、昔に比べればそれほど現金を持たずに乗務していることが多いという。 ただし、2000年代までには都内ではほぼなくなったものの、東京23区以外の首都圏でさえ2000年代に入ってもしばらく「名刺乗車」という、「荒手のキャッシュレス乗車方法」が頻発していた。これは乗客が自分の名刺を運転士に渡し、降車時は料金を支払わず、後日タクシー会社の人間が勤務先や経営している会社、店舗へ集金に行くという支払い方法だ。
後日集金はやっぱりトラブルだらけだった
当時、あるタクシー会社で話を聞くと、名刺乗車を申告された場合は運転士が無線にてタクシー会社に受けていいかを確認するシステムだったのだが、実際には確認せずに名刺をもらってくるケースも多かったようだ。 基本的に大手企業の支店など、「身元」の確かな相手以外は認めないのだが、それ以外の「名刺乗車の常連」も多くいたとのこと。この手のお客には、地元で少々名の知れた企業や店舗の経営者が多いようで、現金の持ち合わせがないというよりは、自分の名刺への「信用度」を誇るために好んで名刺乗車する人もいたとも聞いている。 むしろ、後日の集金で揉めるのは大手企業の支店などの関係者と聞いて驚いたのを覚えている。得意先の接待の帰りに名刺乗車するようだが、たいていそのような接待をひんぱんに行う業種の会社は、得意先用にタクシーチケットを持っているが、社員は使えないという内規があるのだが、酔った勢いなのかついつい名刺でタクシーに乗って帰る社員が出てきて社内で問題化していたという。 「集金に行くと、『運転士さんに弊社社員は名刺乗車できないと徹底して欲しい』と経理担当者からお小言をもらうことも多かったようです」とは事情通。 また、チケットが使えたとしても、有料道路の使用がNGなのに使ってしまい揉めるといったこともあったようだ。むしろ、地元企業や店舗経営者は集金で揉めるということはあまりなかったと聞いている。いまではタクシーチケットというよりかは、法人名義で配車アプリを使って利用を管理する会社も増えているそう。 チケットが全盛のころは、本来は帰宅が深夜になり勤務先から自宅までの利用に限られたものでも、乗車地が繁華街でタクシーが自宅とは異なる住所を経由しているものもあったそう。つまり、飲みに行った飲食店の女性従業員を送り届けながら自宅へ帰っていたといったケースも多かったと聞いたことがある。 チケットを使うには、たいていデポジットとして事前に結構な現金を払うことが一般的であったそうだ。ただ、なかには頻繁に利用してもらうためにデポジット不要でチケットを渡す事業者もあったそう。そのようなところでは現金回収ができず、多額の売りかけになることもあったようだ。 アナログ時代でもキャッシュレスでタクシーに乗る人はいたのだが、不正あるいは不透明な利用、後日の集金など面倒が多かったのは間違いのない事実であった。 デジタルツールが世のなかに普及してきたから、キャッシュレス決済できるようになったというわけでもない。アナログ時代にはその時代なりのキャッシュレス乗車ができたのだが、いまはデジタルツールが普及し、乗客を選ぶことなくキャッシュレス乗車が可能となり「取りこぼしリスク」も飛躍的に低くなったといえよう。
小林敦志