『西園寺さんは家事をしない』西園寺さんと楠見の本音が浮き彫りに ルカに訪れた試練
西園寺一妃(松本若菜)と楠見俊直(松村北斗/SixTONES)という不器用な大人2人がまた遠回りをして、自分たちの本音がより浮き彫りになった『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)第10話。 【写真】並んで眠る西園寺さん(松本若菜)、楠見(松村北斗)、ルカ(倉田瑛茉) 骨折した父親を心配した西園寺さんが、楠見親子に引越しをしてもらい、代わりに父親を今の家に呼び寄せると言い出す。同じ敷地に住む“偽家族”形式ではなく別居しながらも継続する“二拠点偽家族”スタイルに移行するとルカ(倉田瑛茉)にプレゼンした西園寺さんだったが、実際には“偽家族”に終止符を打とうとしてのことだった。 もう互いに好意がダダ漏れな西園寺さんと楠見だが、やはり2人ともルカのことが引っ掛かるようだ。「パパのこと好きにならないで」というルカの涙ながらの訴えが西園寺さんにとっては大きな大きなハードルかつストッパーになっているのだろう。楠見も同様で条件反射的に「ママ」と連呼しながらいまだに泣き出してしまう娘の様子に、“偽家族”から“偽”を取り払ってしまうという発想を封じ込めてしまっている。 せっかく母親を失った後、安心できる空間や環境を手に入れたルカから、自分たち大人の勝手で彼女にとって心地いい関係性を壊してしまうわけにはいかない。それが何より譲れない第一優先の行動原理として2人の中心にあるがために、磁石のS極同士のように近づこうとすると反発してしまう。そんな2人の距離感は何ともじれったい。せっかく2人の関係性の前進のために自分は身を引いたカズト横井(津田健次郎)からしても、さぞかし歯痒いことだろう。 それにもかかわらず「本彼氏ではなくとも偽家族の一員になりたい」と心から言える横井もまた素敵だし、男女間の交際や結婚以外の手段で人と繋がろうとする共同体の可能性が幾重にも散りばめられている本作に希望が宿る。 “偽家族”3人の思い出がそこら中に染み付いた部屋からの退去が近づくにつれて、ルカは「明日の明日の明日もやる」と言って聞かず“ずっとこの日々が続いてほしい”という気持ちが溢れ出し泣き出してしまうが、彼女にとってもまさに今が試練の時なのだろう。西園寺さんとの生活と亡き母・瑠衣(松井愛莉)との記憶の間で知らないうちに揺れ動く気持ちが、矛盾せずに自分の中で収まるその置き場所を探っている途中なのかもしれない。どちらに対しても罪悪感など抱かずに、双方ともに傷つけず大切にできる心のバランスが小さい彼女の中で見つかりますように、と願わずにはいられない。 そんな時に、父親でも西園寺さんでもない横井がルカの側にいてくれて良かったと思う。ルカは横井に頼んでクッキーを作るが、それを2人にあげるのではなく「友達に渡す」と話していたが、それは一体誰のことなのだろうか。ルカの置き手紙の「さようなら」もきっと横井の保護下で行われていることで、彼女にとって自分の気持ちを整理する大冒険に出たのだろう。 一方、西園寺さんが父親との同居という嘘までついて同棲解消を言い渡したと知った楠見は、横井と一緒に住むために自分たち家族を追い出したのでは?と本気で考える。この期に及んで的外れもいいところだが、もはやそうであった方が西園寺さんへの気持ちに諦めがつくという思いもどこかであったのかもしれない。 レスQの社長・天野(藤井隆)の言葉通り、西園寺さんと楠見は高め合う相手よりもさらになかなか出会えない“支え合う相手”であり、2人の間には「上を見るのではなく隣を見る姿勢」があるからこそ、ルカのことをもう一段信頼してみてほしい。勇気を持ってもう目の前にある答えに気づかぬふりをせずに手を伸ばしてみてほしい。西園寺さんの父親・康平(浅野和之)が言うように今こそ「家族は勝手に思い込んでいてはいけない」のだろう。 互いを想い合っているものの、ルカのことを第一優先で大切に思うがゆえに、複雑にこんがらがってしまっている西園寺さんと楠見のもつれが解消されますように。“誰も悪くない”ネックを飛び越えられますように。 しかし、この引越し騒動には思わぬおまけまでついてきた。楠見親子が依頼する家事代行業者の面接で採用された川口さん(高畑淳子)というのは、きっと西園寺さんがわだかまりを抱える母親なのだろう。もしかするとルカがクッキーを作った相手は彼女かもしれない。最終回、西園寺さんと楠見親子やその周囲はどんな家族のカタチに辿り着くのだろうか。
佳香(かこ)