『リュミエール!リュミエール!』は動画でバズりたい人必見? みんなで楽しく勉強しよう
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、日本一ありがとう石井が『リュミエール!リュミエール!』をプッシュします。 【写真】約130年前のパリで生きる人々 ●『リュミエール!リュミエール!』 26年ぶりの日本一を達成して以来、放心状態がまだ続いている今日この頃。そんな小学生の頃から始まったベイスターズ中心の生活だった自分に、中学生の頃、新たな選択肢として世界を大きく広げてくれたのが映画でした。約2時間で、これまで知らなかった知識、観たことがない景色を見せてくれる映画、なんて得るものが大きいのだろうと。 最初はただ楽しいと思える作品、人気の作品を観てみるだけの日々でしたが、ある日背伸びをして、「フランス映画」に手を出しました。 「映画の“最初”はフランスらしい」。最初を知っている俺カッケーになりたく、TSUTAYAのフランス映画コーナーで初めて借りたのが、ジャン=リュック・ゴダール監督作『アルファヴィル』。この映画を観て、映画の道に踏み出すことを決めたのです……と書けたらカッコよかったのですが、当時13歳、まったく意味不明でした。最後まで観ることもできませんでした。。今思えばゴダールならせめて『勝手にしやがれ』とか『女は女である』にしておけば、まだ違った結果になったと思います。が、何もわからない13歳は棚の一番手前(アルファベット順)にあった『アルファヴィル』を手に取ってしまったのです。 ほぼ初めてのモノクロ映画に聞き馴染みのないフランス語、SF作ということで字幕を追っても物語を理解しづらい。「映画を知っていくぞ!」と意気込んだ少年の心を破壊するのには十分過ぎる経験でした。以来、ある種のトラウマといえるレベルでフランス映画へのハードルが異様に高くなったのでした。 そんな自分のフランス映画アレルギーを払拭してくれたのが、リュミエール兄弟の作品群です。ようやくここから本題です。映画を知ろう、学ぼうと、本を読むなり、大学の授業なりに参加すると、必ず出てくるのが、このリュミエール兄弟。映画を特に趣味としていない方でも、クイズ好きだったり、一般教養を大事にしている方などは、「映画のはじまり」としてこの兄弟の名前を記憶しているかもしれません。1895年12月28日のパリ、人類史で初めて観客からお金を取り、映像をスクリーンに上映、今日にいたる「映画」のスタイルを作ったのが彼らです。 リュミエール兄弟による数々の無声映画は、「劇映画」とは言えない(かといってドキュメンタリー映画とも言えない)1分にも満たない作品群でしたが、これが不思議とずっと観ていられるのです。無声映画ではあるので、これを持ってフランス映画克服、というのも変な話ではあるのですが、モノクロでも、言葉が分からなくても、今を生きる人と同じように100年以上前の人々が当たり前にそこに生きていた、そんな当たり前のことになぜかとても感動したのを覚えています。 今回の『リュミエール!リュミエール!』は、2016年公開の『リュミエール!』の続編であり、リュミエール兄弟が制作した1450本の中から102本が選び抜かれ、再構成された内容となっています。 映画をある程度学んだいま改めて観てみると、本当に恐ろしいほどに、一番最初の時点で画面の構図も、どんなふうに人やものを動かすかも(演出)完璧に作り上げられていることに驚きます。彼らは前例がないのに、一体どこで誰に学んだのでしょう? 一連の作品は基本的に編集はないためワンカットで撮影されています。そのワンカットに誰がどう映り込んでどう画面から出ていくのか、何が入り込んでいるのか、完全に計算された構成がされているのです。今のようにデジタルでその場で確認できるわけでもないので、一体どれほどの準備をして撮影したのかと思うと気が遠くなるものもあります。 ただ、決して「頑張って作りました!」感がないのもいいところ。純粋に楽しくて、興味があって、このいまを残したくて、という非常にシンプルな思いが滲み出ているのです。この根源的な喜びはいまの映像を作る方々にとっても大きな刺激になると思います。 無声映画102本を延々と観る、これだけ聞くとハードルが高いように感じるかもしれませんが、まるでTikTokやYouTubeのショート動画を観ているように次々進んでいくので、意外にあっという間です。映画の2時間は耐えれない、ショート動画の1分で十分と思っている方ほど、楽しく観られると思います。そして、作り手の方々にとっては、間違いなく学ぶべき切り取り方があるはずです。 映画史を勉強する、無声映画を観ると思うと、途端に敷居が高いもののように感じるかもしれません。でも、本作はそんな部分から最も離れた作品と言ってもいいです。100年以上前の人がどんな思いでどんな格好で動いていたのか、どんな建物があって、どんな景色があったのか、それに少し触れるだけでもいろんなものの見方が変わるきっかけになると思います。
石井達也