“豹変”を恥ずかしいとも思わない 「相手によって態度を変える人」のみにくい心理
ところが、このような涙ぐましい努力が想定外の事態を招くこともある。センサーの感度を極力上げて、“上”にいい印象を与えられるように頑張っていたのに、その“上”が何らかの事情で退社したり、権力を失ったりする場合だ。そうなると、それまでの気遣いがどこにいったのかと首を傾げたくなるほど、ぞんざいな対応をするようになる。 よく聞くのは、ポストオフや定年後再雇用になった元上司に対して、一切話しかけない、場合によっては挨拶も返さない元部下がいるという話だ。元部下の豹変に悩んで落ち込み、眠れなくなった定年後再雇用の男性が私の外来を受診して、「管理職ではなくなり、何の権限もなくなった奴は無価値だと向こうは思っているから、ぞんざいに扱うのでしょうか」と尋ねたこともある。
聞けば、この男性が上司として人事権を握っていた頃は、挨拶さえしなくなった元部下は非常に従順で、盛んに媚びへつらっていたそうだ。しかも、この男性の定年後その後釜に座ったという。 この元部下のように、話しても挨拶しても一文の得にもならないと思えば平気で無視する人はどこにでもいる。根底に潜んでいるのは損得勘定であり、相手の地位や役職を見て行動し、平気で態度を変える。しかも、それを恥ずかしいとも、後ろめたいとも思わない。
片田 珠美 :精神科医