“豹変”を恥ずかしいとも思わない 「相手によって態度を変える人」のみにくい心理
この店員は、仕事自体は好きで、他の従業員や上司との関係は良好なため、継続して勤務したいという気持ちが強かった。しかも、人員不足の職場で自分が休めば迷惑をかけるため、できる限り休みたくないという希望だったので、軽い睡眠導入剤を処方した。 その後、この店員は本部の人事部長に相談し、なるべく店長と一緒に働かずにすむようにシフトと出退勤時刻の調整をお願いした。できれば他店舗に異動したいという希望も伝えたのだが、それに対して部長からは「あの温厚な店長がそんなことをするなんて信じられない。接客態度が悪かったら注意するのは当たり前だ。今時の若者は辛抱が足りないって話もよく聞くしなあ」という答えが返ってきた。調整と異動についても、部長は「検討する」と言ったものの、実際には何の配慮もしてもらえないまま、店員は服薬しながら働き続けている。
たしかに、今時の若者は叱責への耐性が低く、すぐ辞めるという話はあちこちで耳にする。だが、少なくともここで取り上げたIT系企業とアパレル会社では、課長もしくは店長の暴言や叱責などによって部下が何人も辞めており、上司の言動にまったく問題がなかったとは到底思えない。にもかかわらず、2人とも上層部から「温厚」と評されており、部下に対する“乱暴”ともいえるふるまいについても、「信じられない」という反応が返ってきている。
その一因として、2人とも“上”に対する態度と“下”に対する態度が全然違うことが挙げられる。私の外来に通院中のアパレル会社の店員によれば、本部から社長と役員が店舗の視察に来た際、店長は非常に礼儀正しく、きわめて丁寧な口調で話しており、日頃の言動と全然違うので、唖然としたという。 こうした違いは、自己保身欲求と上昇志向が強い人にしばしば認められる。その人に気に入られるかどうかで自分の出世が決まる“強い”相手、つまり人事権を握っている上層部に対しては極力下手に出て、自分の言いたいことも言わず従順にふるまう。