団地で一人で逝った母 望む晩年を実現させてあげられず後悔 是枝裕和監督
映画『海街diary』で「第39回日本アカデミー賞」最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞をはじめ、これまで手掛けた作品が、日本のみならず世界の映画祭で高い評価を受けている是枝裕和監督(53)。 そんな彼が「下界で何をしてきたんだ、とえん魔様に言われたら真っ先に見せると思います」と語った映画『海よりもまだ深く』が完成した。自身の“後悔”が色濃く出ているという本作への思いや、アカデミー賞受賞時に語った日本映画界に対する発言の真意を聞いた。
是枝監督が心に残っている“後悔”とは
「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」 是枝監督が、本作の脚本の最初に書いた1行だという。誰もが子どもの頃に抱いていた夢や希望。そして実際に訪れる現実――。団地を舞台に、家族の物語が展開される劇中の登場人物からも、こうした思いがにじみ出てくるようなシーンが多数ある。 是枝監督と言えば、1995年に『幻の光』で映画監督デビュー後、数々の作品を世に送り出し、世界各国の映画祭で多くの賞を受賞するなど日本を代表する映画監督だ。客観的にみれば「なりたかった大人」になれた希有な存在だと思われるが、是枝監督は「なれてないね」と即答する。 「50代ってもっと成熟していると思っていたけれど、全然昔と変わらない」と苦笑いを浮かべる。ただ、こうした思いは誰もが心の中に持っているもの。さらに突っ込んで聞いてみると、 「僕は団地で母親を一人で死なせてしまったんです。それは大きな後悔ですね。母親が望んでいた晩年は、たぶん僕が家を建てるとは思っていなかっただろうけれど、家賃を払わないですむような家に住み、そこに同居して孫を抱くという感じだったと思う。でも結局、僕に子どもができる前に死んでしまって……。当時は『姉ちゃんのところに子どもがいるからいいでしょ』なんて言っていましたが、その後悔はずっと引きずっていますね」と語った。 そして、この“後悔”が本作の制作のきっかけの一つになっていることを明かした。