かつてはレース仲間だった…ゴールで待つ難病の友のために 日本一過酷な山岳レースに参戦 広島市の三上さん
日本一過酷とされる山岳レースだ。2年に1度の「トランスジャパンアルプスレース」が始まった。コースは日本海(富山県)から太平洋(静岡市)へ、アルプスの険しい山々をつなぐ415キロ。テントや食料を背負い、8日以内に走破する。広島市東区の会社員三上満さん(52)は、2度目の挑戦に臨む。 【写真】ALSを患い、自宅で過ごす中村さん 2年前は台風が迫る中、7日目にリタイアした。あれから毎朝走り込み、山通いも続けてきた。トレーニングも本番も絶対、手を抜けない。究極の「精いっぱい」を貫きたい。あの人が応援に来ると言うのだから。 元上司だった中村佳司さん(58)=佐伯区=のこと。2人は近場の山を一緒に走ったり、同じ大会に出たりしてきた仲だ。だが中村さんはもう、自力では立てない。全身の筋肉が徐々に動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う。 中村さんが変調に気付いたのは2015年ごろ。手足の冷えを感じ、走るたびに足や腹筋がつるように。フルマラソンも走っていたが、タイムは急降下した。整形外科では改善せず、18年に神経内科を受診した。 免疫疾患を疑われ、検査と投薬、経過観察を繰り返した。その間も症状はじわじわ進む。ボタンが留めにくくなった。筋肉のけいれんが増し、もん絶するほど痛むことも。日に日に走れなくなった。「人任せにすまい」。中村さんは医学書を読み込み、どんな治療も積極的に受けた。東京の病院でも診てもらった。 ALSの確定診断が出たのは20年冬。中村さんは「やるだけやった結果だから仕方ない。全てを受け入れた」と言う。ただ「できないことが増えていくから目標を立てにくい」とも。そんな中、家族の力を借りて三上さんの応援に行く計画を立てた。それは一つの大きな目標なのだという。 レースではゴールで待ち構えるつもりだ。「限界を決めてしまわず、自分を超えようとする姿がすごい。力をもらいます」。中村さんは三上さんをそうたたえる。「私が応援に行くことが彼の励みになるのだとしたら、それもうれしいです」 なぜ限界に挑むのか。三上さんに尋ねた。「中村さんの存在がモチベーションになっているし、頑張ることで彼を元気にできたらいいなと思うんです」。返ってきた言葉は中村さんと同じ。互いを思い、ともに最善を尽くす。
中国新聞社