陸上100mで桐生祥秀は2度目の9秒台を出せるのか?その2018年計画を探る
京都・洛南高校3年時に日本歴代2位(当時)となる10秒01をマークし、一躍脚光を浴びた桐生の指導において、土江コーチは走力のベースを徐々に上げる地道なアプローチを取ってきた。 「桐生という選手と対峙する、一日一日の練習が僕にとっての勝負みたいな感じで。どのようにしたら、アイツの情熱が練習にちゃんと向けられるのか。そうしたあつらえを、こちらがしっかり準備できるのか、という勝負ですね。アイツは『超』がつくほどの素直なんです。表裏がまったくないから、表情や態度に思っていることがそのまま出る。いい練習ができたと思って終えられる日と、何だかダメだったという日の繰り返しでしたけど、どちらかと言えば後者の方が多かったかな」 練習も土江コーチが主導するのではなく、2年生の夏からは桐生が望むメニューを優先させた。車にたとえれば土江コーチがハンドルを握るのではなく、桐生自らが運転し、コーチは教習官のように補助ブレーキのついた助手席に座るイメージだ。 桐生のすべてを知り尽くしたからこそ、逆転の発想が生まれた。ユニークなボクシング練習もその一環であり、昨シーズンを迎えた段階で9秒台へ突入できる地力を完全に備えていた。 そして、いまでは固い絆で結ばれた二人三脚は、桐生の卒業後も継続される。陸上部のない日本生命と所属契約を結び、実質的なプロ選手として、埼玉・川越キャンパス内にまもなく完成するインドアのトラックを拠点に、2年半後の東京五輪のファイナリストを目指す。 「次のステップは、勝負どころで桐生の走りができるかどうか。世界と戦えるという自信を持って、スタートラインに立つ。その積み重ねで『負けない桐生』ができてくると思うので」 今シーズンの最大の標的は、8月にジャカルタで開催されるアジア競技大会。世界陸上で2大会続けて決勝に進出した蘇炳添(中国)、9秒91のアジア記録をもつフェミ・オグノデ(カタール)らに真っ向勝負を挑む。 まずは冬場の練習でベースを9秒9台にまで上げて、意図的に切るスロースタートのもと、余力をもってアジア大会の選考会を兼ねる6月の日本選手権に臨む。舞台となる山口・維新みらいふスタジアムのトラックでは、昨年敗れたサニブラウン・ハキーム(フロリダ大学)、多田修平(関西学院大学3年)らへのリベンジも待っている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)