5年に一度の年金制度改正 “主婦(主夫)年金”見直し提言…厚生年金“拡大”論も
3)第 3 号被保険者問題と「2 つの年収の壁」
人口減少社会の中、働き手を増やすため、着手されようとしているのが「年収の壁」の改革だ。社会保険料の支払いが発生して、手取りが減ることから、パートで働く主婦が気にしていたとされるのがこの「年収の壁」だ。 第3号被保険者」は保険料負担を免除されているが、「年収 106万円以上」と「年収 130万円以上」の「2つの壁」があるとされる。 まず「年収 106万円以上」の壁は、従業員が 101人以上の企業で働き、週に20時間以上勤務するなどの条件を満たした場合、厚生年金などの社会保険料の負担が生じるというものだ。さらに「年収 130万円以上」の壁は、企業の規模にかかわらず、年収が 130万円以上になると厚生年金などの社会保険料の負担が生じることになる。今年の 10 月からは制度が改正され、年収が 106万円を超える場合、従業員 51人以上の企業でも社会保険料の負担が生じる。ただし、厚生年金の保険料を負担することで、年金受給額が増えていくメリットもある。 この「年収の壁」の条件を見直して第3号被保険者を減らし、厚生年金の対象者となる第2号被保険者を増やしていこうという改革案も出ている。厚生年金の適用を拡大する考えを、加谷珪一氏(経済評論家)は以下のように見ている。 そもそも男女の賃金格差が問題の背景にある。賃金格差がなく、女性も男性並みに高い賃金がもらえる状態であれば、この問題は起こらないはずだ。賃金さえ高ければ迷わず厚生年金に入った方が、当然いい。ところが現実問題としては、女性にはパートタイムの仕事しかないなど、安い賃金で働かざるをえない現実があることで、この「年収の壁」が大きな問題になっている。制度自体が時代に合わなくなってきているので、厚生年金へのシフトという流れではあるのだと思う。しかし、男女間の賃金格差をどうするかなど、日本社会の雇用問題もセットで考えないと、完全な解決策には至らないのではないか。 岸田政権は、この問題への対応をどのように推し進めていくのか。田中秀明氏(明治大学・公共政策大学院専任教授)は以下のように分析した。 厚生年金の適用対象を広げることは一見すると望ましいと思うが、実は大きな問題がある。国民年金の加入者と比べ、安い保険料でより大きな給付を得られることになり、非常に不公平である。 国民年金保険料は現在、毎月 1人、1万6980円。これに対し、厚生年金に加入する月額賃金の下限は8万8000円になっている。これに保険料率 18.3%を乗じて、保険料を計算するが、それは労使合わせて 1万6104円(個人負担は半額の 8052円)。適用対象の拡大とは、この下限の月額賃金を 7万円や 6万円に下げるものである。そうすると、現在でも労使合計の負担は国民年金より安いが、更に安くなる。国民年金保険料より安いにもかかわらず、基礎年金部分に加えて報酬比例部分も受給できる。国民年金の場合、基礎年金だけである。もし、全ての国民が厚生年金に加入している場合、適用拡大は正しい政策だが、実際にはそうなっていないので、これは著しい問題があることを認識しなければならない。 年金の制度改正については、下図のようなスケジュールで議論が進められていく予定だ。 今後注目のポイントについて、木内登英氏(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)は、次のように指摘する。 今回の公的年金制度改正のための財政検証というのは、少し特殊だ。これまでは年金財政の持続性を高めることや、給付額が下がることを防ぐことを目的としていたが、今回は人手不足対策という新しい要素が入ってきたことで、より難易度が高くなっている。在職老齢年金の問題や第3号被保険者については、人手不足をより深刻にしてしまう。さらに自営業者の方には恩恵がいかない、単身者が余計に保険料を払っている、という不公平感が非常に大きい制度になっている。さらに女性の社会進出を妨げているという側面もあるので、難しい問題ではあるけれども、抜本的に見直していかなくてはいけないだろう <出演者> 田中秀明(明治大学・公共政策大学院専任教授。85年に大蔵省入省。内閣府参事官を経て、現職。老後の最低保障を視野に、年金制度改革を提唱) 加谷珪一(経済評論家。日経BP記者、野村系投資ファンドを経て独立。中央省庁へのコンサル、金融、経済、二次など多方面で執筆活動) 木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト。2012年、日銀審議委員に。任期5年で金融政策を担う。専門はグローバル経済分析) 「BS朝日 日曜スクープ 2024年5月26日放送分より」
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