「一人当たりGDP」に着目 見方を変えると、じつは優秀な日本の生産性
「日本経済は低成長。それゆえ生産性の向上が急務」との指摘が数多くあります。日本経済の通信簿である実質国内総生産(GDP)成長率にかつてのような勢いはありませんし、労働生産性については米国の6割程度、G7で最下位とさえない状況です(図は時間当たり労働生産、一人当たり労働生産性も概ね同じ)。
しかしながら、少しだけ視点を変えるとガラリと見方が変わるのも事実です。まずGDP成長率については、普段私たちがよく目にする国全体のGDPではなく、「一人当たりGDP」に目を向けると、さすがに1980年代よりは低下しているものの、90年代台前半からほとんど低下していないことがわかります。
この差を生んでいるのは人口動態(厳密には生産年齢人口)です。国全体のGDPは人口が増えている国は高めに、減っている国は低い方向に力が働きますから、高度経済成長期の日本や現在の米国など人口が増加している国のGDPは高めに、反対に現在の日本や欧州の一部の国では低めにでる傾向があります。一方、一人当たりGDPは人口のボリュームが直接的には関係しないことから、個人や企業単位の豊かさの成長度合いが映し出されます。
また一人あたりGDPは米国との比較においても互角の成長率を維持しています。「米国はイノベーションが数多く生みだされているが、日本では起きていない」と言った具合に日本経済の停滞を問題視する議論がありますが、この尺度では日本経済は米国並みに優れていることになります。
次に労働生産性についてみると、確かにその”水準”は米国に大きく見劣りします。しかしながら、“水準”と同等あるいはそれ以上に注目すべきは”伸び率”です。というのも、生産性など”額”を国際比較する際は、一般的に購買力平価という基準でそれを米ドルに換算するため計測誤差が大きいことが知られているからです。為替は「一物一価」が成立する水準に決定されるはずですが、それは飽くまで教科書の中の話であって現実には毎年のように上下20%程度の変動を繰り返します。従って、米ドル換算した数値は相当な幅を持ってみる必要があるということです。 そこで“伸び率”の出番です。水準の比較は誤差が大きくても伸び率を計測すれば、労働生産性の改善度合いが把握できますから、効率性改善の成果という観点からは、こちらの方が重要です。この尺度でパフォーマンスを測定すると、日本の時間当たり労働生産性の伸び率は主要先進国でトップクラスです。