イスラエル北部にも広がる戦火、民兵組織ヒズボラの侵入に高まる懸念 鳥の鳴き声がよく聞こえた土地には今、爆撃音が響いていた
そんなトミーさんだが、子どもや孫は「退避することが大切だと思った」。ハマスによるイスラエルへの越境奇襲を見て、北部でも「何が起こるか分からない」と考え、ヒズボラが侵入することを懸念したからだ。 この日はトミーさんの息子の妻タマルさん(46)と2人の孫アヤラさん(16)とヤラさん(11)が退避先からトミーさんを訪ねていた。犬たちがじゃれつくようにアヤラさんやヤラさんの周りを駆け回っている。 タマルさんの夫は予備役としてイスラエル軍に動員され、ガザで任務に就いているという。 「いつも不安がある。ニュースを見る時に(夫の身に何か起きていないかと)心配する。子どもたちも口には出さないけど不安はあると思う。夫から電話があると安心する」。タマルさんが苦しい胸の内を明かした。 ▽ヒズボラが侵入してきたら…募る懸念 イスラエルがシリアから占領しているゴラン高原には、イスラム教から派生したドルーズ派の住民が暮らす。レバノンだけではなく、イスラエルが敵対するイランが後ろ盾となっているシリアも目の前だ。 エインキニヤ村。突然攻撃音が響き、その後、応じるかのように砲弾が放たれたような大きな攻撃音が続いた。地元住民の男性によると「レバノンから攻撃があり、それにイスラエルが反撃した」のだという。既にこうした交戦は日常化しているようで、その場で怖がるそぶりを見せる住民はいなかった。
「火薬のにおいがしたんだ」。マジデ・モンデルさん(51)は昨年11月に畑で拾ったという金属部品を手にしながら言った。近くの畑には別の部品も落ちていたという。レバノンからの攻撃が農地や空き地に着弾しているようだ。 ワエル・ムグラビ村長は「ヒズボラが(地域に)来ることへの不安がある」と訴える。ハマスの奇襲では、ユダヤ人だけではなくタイ人ら外国籍の人々も犠牲になったり人質になったりした。ヒズボラが地域に侵入して攻撃してくれば、自分たちも巻き込まれることになるのではないか。そんな懸念が頭にあるのだという。 イスラエルはシリアを通じて周辺国の親イラン組織に武器などが輸送されているとみて、シリア領内への攻撃も繰り返している。 昨年12月25日には、シリアでイラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問が殺害された。イランはイスラエルのミサイル攻撃でムサビ氏が殺害されたとみており、保守強硬派を中心に報復論が高まっている。
「イスラエルの防衛システムに不安を感じた」。マジダルシャムス村のドラン・アブサラハ村長は、ハマスのイスラエルへの越境攻撃について、こう振り返った。 ハマスは市民を殺害し人質に取った。アブサラハ氏は、ハマスについて「テロリストの思想だ」と切り捨てた。さらにヒズボラやシリアで活動する民兵について「自分たちと違うグループを殺害するイデオロギー」を持っていると指摘した。「心配は高まっている」。険しい表情で言った。