日本製鉄のやり方に問題?USスチール買収にバイデン氏が「待った」 米国を刺激した2つのポイントを国際弁護士が解説
アメリカの鉄鋼大手・USスチールの臨時株主総会が12日に開かれ、日本製鉄による買収案が承認された。 【画像】米国内で“反発” 日本製鉄の「USスチール買収」問題 国際弁護士・湯浅卓氏は「嫌がらせではない」と語る 日本製鉄は2024年9月までの買収完了を目指すが、バイデン大統領が買収に慎重な姿勢を示すほか、米司法省が日本の独占禁止法にあたる「反トラスト法」に基づく調査を始めるなど、先行きは不透明だ。 日本製鉄への逆風の原因は何か。 反トラスト法を専門にニューヨークやワシントンなどで活躍する国際弁護士の湯浅卓氏に聞いた。
短期間での合併話を問題視
ーー独占禁止法の調査は日本に対する嫌がらせ? USスチールと日本製鉄というトップクラス同士の合併話なので、アメリカ当局が「反トラスト法」に基く調査をすることはやむを得ないことです。 その意味では嫌がらせではありません。 ただ、タイミングがあまりにも大統領選挙に近いので、労働組合側が自分たちに有利になるように政治問題化した側面はあると思います。 ーーこのサイズの合併だと調査は入る? アメリカの独占禁止法の特徴は、“規模”だけで自動的に違反とはなりません。 “規模”よりも、合併に至る“動き”が問題になります。 今回の場合は、比較的短期間に一気に合併話が持ち上がったので、当局を刺激したと言えます。 もう少し前から、両社の間でジョイントベンチャーや子会社を作るなど、ビジネス組織上の歴史があれば、反発は少なかったと思います。 仮に私が日本製鉄のアドバイザーだったら、まずはジョイントベンチャーを作って、その結果として両社間でシナジー(相乗作用)があり、従業員のためにも、消費者やアメリカ経済のためにも良いという実績を作るべきだと助言していたと思います。 この1ステップがなく、一気に合併交渉に進んだことがまずかったと考えます。
基幹産業の空洞化を懸念
かつては強いアメリカのシンボルだった鉄鋼産業。 なかでもUSスチールは123年の歴史を誇り、一時は「世界一の企業」だったが、時代と共に競争力を失ってきた。 ーーバイデン大統領が合併に反対する理由は? 今のアメリカは基幹産業よりもIT産業の方が大ブームで、基幹産業が空洞化するという不安があります。 労働組合が大きな支持基盤であるバイデン大統領にとっては大変な問題です。 さらにトランプ氏も「poor white」(白人の低所得者層)が支持層にあるため、労働組合が親トランプになりかねない状態があります。 トランプ氏が「この合併はありえない」とぶち上げたので、バイデン大統領も引くに引けない状況になっているわけです。 ーー日本製鉄の対応に問題は? 日本サイドから「これは決まり事だよ」といったアドバルーンが度々上がっていましたが、それはアメリカに任せておいた方が良かったと思います。 理由は、大統領選挙が近いからです。 アメリカは大統領選挙への海外からの関与に対して非常に神経質になっています。 ロシアがFacebookなどを活用して大統領選挙に関与したとの疑惑があるため、メディアを含めアメリカ全体が警戒しています。 そのタイミングで巨大なM&Aを行うリスクはそもそも高いので、まずはアメリカ側からアドバルーンを上げて労働組合と話をするなど、流れを任せるべきだったと思います。