未就学なら「いじめ」じゃない? 集団で暴力受けても、いじめ防止対策推進法の対象外
「息子がひどいいじめを受けたのに、幼稚園は『未就学児にいじめはない』と対応しなかった。おかしい」。東京都の男性(48)が西日本新聞「あなたの特命取材班」に意見を寄せた。集団無視などの陰湿な嫌がらせや暴力行為は低年齢でも確認されている一方、発達段階にある幼児の行動をいじめと扱うことに慎重な見方がある。線引きの難しさがいじめの実態把握や対策を困難にしている。 【図表】「管理職が保身のため認めない」いじめに関する教職員・保護者アンケート 男性によると、小学1年の息子(6)は渋谷区内の幼稚園に通っていた昨年、空手教室に通う男児3人から複数回にわたり、園内の物陰で殴られたり蹴られたりして口止めされた。息子は夜中に泣き出すなどし「いじめに遭っていた」と告白した。 男性は園に対応を求めた。園は「じゃれ合いの延長。いじめは幼稚園では存在しない」。園のアンケートで複数の目撃証言が集まったが、園からも相手側からも謝罪はなかった。 未就学児を巡っては2022年、大津市立保育園に在籍した園児が、性別に違和感を持つことが原因で他の園児にからかわれた行為などを、市の第三者委員会がいじめと認定した。 文部科学省がまとめた22年度のいじめの認知件数は、小学校から高校までの全学年で小2が最多で次が小3、3番目が小1。この3学年で全体(約68万件)の半数近くを占める。「小1でいじめ重大事態に認定される事案もあるのに、なぜ幼稚園にいじめはないと断言できるのか」と男性。児童生徒に限られているいじめ防止対策推進法の対象に未就学児も加えることや、自治体や園がいじめ対応のマニュアルや指針を策定することを求めている。 ただ政府は消極的だ。先月、幼稚園でのいじめ防止対策に関する答弁書を閣議決定。幼児期は「やってよいことや悪いことの基本的な区別ができるようになる時期」で発達途上の段階だとし、幼児の行動をいじめや暴力行為として扱うことは慎重に考える必要があるとした。「幼稚園でのいじめや暴力行為の実態を政府として把握することはしていない」と明記している。 これに対し「未就学児にもいじめはある。親が子どもを殴ったり暴言を吐いたりしていれば、同じことを他の子にもする」。いじめ問題に詳しい教育評論家の武田さち子さんは指摘する。幼児のいじめは大したことがないと思われがちだが、善悪の判断がつかず結果の重大性が想像できないため、大けがや心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負わせてしまうこともあるという。 「義務教育ではないため被害者が泣き寝入りしたり、若い保育士が年上の保護者に問題行動を指摘しづらかったりする面もある。責任追及ではなく再発防止のために行政の主導で指針を作る必要がある」と話す。