貧困は「増えている」とも「減っている」とも言える!? 統計データはいくらでも都合のいいように使えるという事実
政府統計などの数字で示されたデータを見ると、私たちはつい「客観的」で「信頼できるもの」だと思い込んでしまう。しかし、果たして本当にそうなのだろうか? イギリスでは、かつて貧困や失業者数に関する統計で「基準の変更」が頻繁に行われ、混乱が引き起こされたことがある。話題の書籍『ヤバい統計』から一部を抜粋して紹介する。 失業者の数は、マーガレット・サッチャー首相政権の1980年代に最も激しい論争を巻き起こす起こす問題の一つ
貧困が減ったかどうかは「見方による」!?
「今日の英国に、貧しい子どもがまだ一人でもいれば、貧しい年金受給者がまだ一人でもいれば、そして人生でチャンスを与えられない人がまだ一人でもいれば、彼ら全員がその状況から解放されるまで、一人の首相と一つの政党は休みなく働き、決して何かを成し遂げたなどとうぬぼれず、決して自分の使命が完了したなどとは思わない」。 1999年にこの誓いを立てた「一人の首相」とはトニー・ブレアであり、「一つの政党」とは労働党だ。だが、彼らは貧しい子どもを減らすことができたのだろうか。次の2つの選択肢から、思ったほうを選んでみてほしい。「わからない」または「見方による」。 1999年から2010年にかけて、子どもの絶対的貧困率は35%から18%に減少した。つまり半減した。だが、同時期の「相対的な」貧困率は26%から20%への減少だった。つまり、4分の1程度の減少に留まった。 「相対的貧困」とは、所得の中央値の一定割合に満たない金額で暮らしている状態を意味している。ところが、住居費も考慮に入れると、子どもの絶対的貧困率の減少は3分の1程度、相対的貧困率の減少は10%強となる。 そのため、2010年に行われた政権交代の直前の労働党政権末期には、貧しい子どもが当時の推定より10万人も多くいた可能性がある。 少なくとも、2010年に首相の座に就いたデイヴィッド・キャメロンはそう主張していた。新首相は、相対的貧困状態にある人が10万人増えた2005年から2010年の期間を「労働党政権末期」として、この数字を出したのだった。 2020年6月まで時間を進めると、またしても同じような光景が繰り広げられていた。保守党のボリス・ジョンソン首相と、野党第一党である労働党のキア・スターマー党首は、貧困に関連する数字の食い違いについて、国会で2週続けて衝突していた。 労働党党首は、「貧しい状況で暮らしている子どもは、政権交代直前の労働党政権時代よりいまのほうが60万人多い」と主張した。首相はそれに異議を唱え、「絶対的貧困状態の子どもは10万人減った」と訴えた。どちらの主張も、政府の公式な数字に裏づけられていた。