W杯で勝ち上がるためのサンプル。日本代表の“実験”に手応えはあったのか。2戦合計10-0の評価【西部の目】
日本代表は11日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選でシリア代表と対戦。6日のミャンマー戦に続き5-0の大勝を収めた。多くの選手にシステムを使った今シリーズはまさに、ワールドカップで勝ち上がるための“実験”ともいえるが、その手応えはあったのか。(文:西部謙司) 【動画】サッカー日本代表、最新のゴールがこれだ!
●5人の交代枠を使い3種類のシステムを採用 ミャンマー代表戦に続き、シリア代表戦も攻撃増強を試みた。3バックを再度採用、しかも両アウトサイドに堂安律、中村敬斗とアタッカーを起用。最大限攻撃的な先発メンバーを組んだ。 後半は選手交代に伴って、3-4-2-1から4-1-4-1へ変化。さらに4-2-3-1に移行している。5人を交代し、システムも3種類使った。この試合でどのメンバーとシステムが良かったかどうかより、交代枠を使い切り、複数のシステムを使ったことに、たぶん意味がある。 現在の日本代表は2チームを編成できる選手層がある。誰がプレーしても大きく水準が下がらない。これはワールドカップ本大会を戦ううえではアドバンテージになる。決勝まで行くなら7試合あるわけで、ある程度ターンオーバーできた方が有利と考えられるからだ。 また、5人の交代枠をフルに使えるのも利点。その中で守備的にも攻撃的にもプレーできて、システムも2回以上変化できるとなると、対戦相手にはかなりの負荷になってくる。多くの代表チームが固定的メンバーで強化しているので効果が期待できそうだ。 ●1試合目より2試合目の方が… 冨安健洋のSB、堂安のウイングバック、南野拓実の左SH、鎌田大地のボランチは、所属チームでの起用法を採り入れたものだが、代表ではあまり馴染みがない。そのテストもできた。 今後、ここまで攻撃的な戦い方をする、あるいはそうしなければならない状況があるかどうかはわからないが、それだけに貴重な機会だったかもしれない。すでに2次予選通過が決まった後の2試合を上手く使えたのではないか。 今回の2試合のテーマとして、ボールを70%近く保持できる展開になったときの得点力があげられる。そして、2試合とも5-0としっかり結果を出せた。 インターナショナルマッチウィークでありがちなのだが、1試合目より2試合目の方がプレー内容は良くなる。今回もシリア代表戦の方がやりたいことをより表現できていた。 ●W杯を勝ち上がるためのサンプル 立ち上がりから田中碧を軸にテンポよくパスが通り、その連続したパスワークによって相手を後手に回すことができた。そのため中央突破の機会も増えた。 先制点は中村が左サイドを縦に突破してのクロスボールを上田綺世がヘディングで合わせたサイド攻撃だが、2点目は中村→久保建英→堂安と停滞なく縦方向へつないでからの堂安のフィニッシュ。3点目はオウンゴールだが、久保の中央からのラストパスまでの形はできていた。 後半は少し停滞した時間もあったが、スムーズなパスワークから中央、サイドの両面からチャンスは作れていた。 72分、鎌田からのノールック気味のパスで抜け出しかけた相馬勇紀がファウルされてPKを獲得。それを相馬が決めて4-0。チャンスを逃さない執念を感じるPKだった。 86分には伊藤洋輝が敵陣でボールを奪い、南野が正確なシュートをファーポストへ蹴り込んで5-0。最後はチームのベースである「良い守備からの良い攻撃」で締めくくった。 実力差のある相手だったとはいえ、選手交代やシステム変更があったにもかかわらず、日本代表の連係はスムーズだった。同調性は日本代表の特徴といえる。今回は何度も代表で一緒にプレーしてきた常連組が多いとはいえ所属チームはバラバラ。それでも個々の技術の高さだけでなくアイデアを共有できる。5人を交代しても機能性が落ちず、守備的にも攻撃的にも戦えるという、W杯を勝ち上がるためのサンプルを提示した2試合となった。 キリアン・エムバペやリオネル・メッシのようなスーパーアタッカーがいない日本代表にとって、接戦に持ち込む力と総力戦による変化や対応力はカギになると思われる。今回は大差がついたが、その武器を使って僅差勝負を制することが目標になるだろう。そのための実験として手応えがあったのではないか。 (文:西部謙司)
フットボールチャンネル