データで探る「第2の日米貿易摩擦」の可能性
注目の日米首脳会談は、どちらかと言えば「安全保障」に重点が置かれ、日本側の懸念事項であった「通商政策(特に自動車分野)」や「通貨政策」に関しては、ほとんど具体的な話し合いが持たれなかった模様です。この点は、日本経済にとって朗報です。 そもそも政権発足からわずか1カ月しか経過しておらず、選挙公約に「日本との通商政策」がリストアップされていたわけでもなかったことに鑑みれば、「自動車の貿易摩擦」、「為替政策」に対する事前の懸念が行き過ぎであったと考えるのが妥当かもしれません。 トランプ大統領は(1)1月5日付ツィッターで本邦自動車メーカーのメキシコ工場建設を批判した後、(2)1月23日には米大企業幹部との会談で「日本では、我々の車の販売を難しくしているのに数10万台の車が大きな船で米国に入ってくる」と自動車貿易に関する不満を表明、その後の(3)1月31日には米製薬企業トップとの会談で「他国は通貨安誘導に依存している。中国は行っているし、日本は何年も行ってきた」と、日銀の金融政策が通貨安を招いていると批判してきました。しかしながら、これらの発言はそれぞれ別の会議でしたし、そのメインテーマは「日本」ではありませんでした。これらに鑑みると、日本側がある種の自意識過剰な状態に陥っていたのかもしれません。 とはいえ、今後、通商政策が再び話題になれば、本邦自動車メーカーを中心に何らかの影響がでる可能性はあります。そこでこのレポートでは、日米の自動車貿易についてデータを整理したうえで、それが金融市場に与える影響を考えたいと思います。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
トランプ大統領が批判する、日米自動車貿易の中身とは?
まず日米の貿易収支に目を向けると、米国の景気後退後はほぼ一貫して日本の貿易黒字が拡大傾向にあり、2016年通年では6.8兆円に達しています。そしてその多くを説明しているのが主力輸出品である自動車です。16年の自動車の貿易黒字額は約4.3兆円と巨額、内訳は輸出金額が約4.4兆円であるのに対して、輸入金額はわずかに約0.1兆円。つまり自動車貿易では日本が圧倒しています。