「そのタイミングはズルい…」ガンダム作品をドラマチックに演出した「最高の挿入歌」の存在感
■損傷した母艦の壮絶な最期に流れた愛の歌
続いて紹介したいのはアニメ『機動戦士Vガンダム』の最終盤で流れた、岩崎元是氏が歌う挿入歌「いくつもの愛をかさねて」だ。この曲も富野由悠季監督が井荻麟の名義で作詞を担当している。同曲の歌詞の受け取り方はさまざまだが、筆者はこの歌詞から「愛する人を失っても生きていく人たちの強さ」を感じとった。 劇中、この挿入歌は第50話、第51話で使われているが、とくに印象的だったのは第50話「憎しみが呼ぶ対決」のほうだろう。 ザンスカール帝国が建造した巨大移動要塞「エンジェル・ハイロゥ」を巡る攻防のなか、主人公「ウッソ・エヴィン」が所属するリガ・ミリティアの母艦「リーンホースJr.」は大きなダメージを受けてしまう。 もはや撃沈は時間の問題という状況で、数少ない連邦軍の協力者であったゴメス艦長をはじめ、ずっとお飾りだった指導者の影武者ジン・ジャハナム、そして年老いた乗組員たちは、若者たちを退艦させ、敵主力艦隊への特攻をしかけることを決心する。 そのときに流れ出すのが、挿入歌の「いくつもの愛をかさねて」だ。 もとをたどれば『Vガンダム』で描かれた戦争自体、年老いた彼らの世代がはじめた戦いであり、最年長の「ロメロ・マラバル」はこの最後の戦いを「長生きしすぎたバチが当たった」と表現している。 その命を使って、最後に戦いに巻き込まれた若い世代に責任をとろうとする老兵たちの姿と、残された若者たちの心情に、名曲「いくつもの愛をかさねて」の歌詞が重なった。 そしてリーンホースJr.は敵旗艦に激突し、周囲にいた敵主力艦隊を巻き込んで大爆発を起こすと、光に消えていくのだった……。
■後継機への乗り換えを最高に盛り上げた名曲
最後に紹介するのは、アニメ「機動戦士ガンダムSEED」の中で流れた挿入歌「Meteor ーミーティアー」だ。SEEDシリーズの主題歌を数多く担当し、声優まで担ったT.M.Revolutionこと、西川貴教氏が歌う名曲である。 その「ミーティア」が流れるシーンで、特にファンの印象に強く残っているのが第35話「舞い降りる剣」の回だろう。 地球連合軍の本拠地「アラスカ」がザフトの総攻撃を受けるなか、主人公「キラ・ヤマト」が乗っていた戦艦「アークエンジェル」もこの戦いに参加していた。しかし、直前の戦いで艦を守ってきたキラとその乗機「ストライクガンダム」を失っており、アークエンジェルは窮地に追い込まれる。 さらに転属命令を無視してアークエンジェルに合流したムウ・ラ・フラガからは、連合の上層部が基地地下に隠した大量破壊兵器「サイクロプス」を起動し、味方ごとザフトを全滅させる非人道的な作戦を実行に移そうとしているという情報までもたらされる。 そんな絶望的な状況のなか、艦に肉薄した1機のジンがアークエンジェルのブリッジに向けてライフルの引き金を引こうとした瞬間、上空からビームが飛来してジンのライフルを破壊する。上空から高速で現れた謎のMSはビームサーベルを振り抜き、ジンの頭部を切断した。 命拾いをしたアークエンジェルを守るように、眼前で翼を広げて滞空したMSこそ「フリーダムガンダム」で、そのパイロットは死んだと思われていたキラ・ヤマトであることが判明する。 そして、この劇的なシーンで流れ出すのが、西川貴教氏が歌う「ミーティア」だ。 そのまま圧倒的な火力で戦場を支配していったフリーダムの強さと、その登場シーンのカッコよさを際立たせるのに、「ミーティア」という挿入歌が果たした役割が大きいのはいうまでもないだろう。 同曲はその後もフリーダム、およびその後継機たちの無双シーンに使われることが多く、「フリーダムといえばこの曲」と強烈に印象づけた衝撃的なシーンだった。 以上のように、ガンダムシリーズにおける印象的な挿入歌と、その曲が流れたシーンを振り返った。いずれも作品を代表する名シーンばかりであり、挿入歌の存在がドラマを盛り上げる大きな要素となっているのは間違いないはずだ。 皆さんの心に残るガンダムシリーズの挿入歌といえば、どのようなシーンを思い出すだろうか。
クロハチ