「ウクライナ政府に裏切られた」…ロシアに追われる女性ジャーナリストの身に次々と襲いかかる「耐え難い苦痛」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第21回 『「プロパガンダ女を逮捕し、拷問せよ!」ロシアだけでなくウクライナからも行われた「憎悪に満ちた脅迫」』より続く
戦争が招く混乱
ニックは怒ったトラのように部屋の中を歩き回った。絶えず電話をかけ、何か叫んでいた。状況は逼迫してきた。携帯電話をベッドに投げつけると、ニックはこちらを向いた。 「すぐにここから出ましょう。明日朝5時です。ウクライナ保安庁の知り合いが朝、SNSにたくさんの脅迫が来ていると電話で教えてくれました。状況はきわめて危険です。彼らがわたしたちをポーランドとの国境まで送ってくれます」 「なぜポーランドなの? モルドヴァに戻るんじゃないの? キシナウのホテルに荷物を残してきてるわ。リュックのなかには自由フォーラムでもらった彫像があるし」 「その彫像と自分の命と、どっちが大事なんです?」 「わかったわ。彫像のことは忘れて、あなたの言う所へ行きましょう」