ゆがめられる民意…台湾狙う“世論工作”のリアル 中国「統一戦略」の実態は
■中国が選挙介入か…旅行参加者に“特定候補”の支持訴え
さらに今、台湾で問題となっているのが、日本でいう町内会長のような「里長」ら地域の有力者が、中国側からツアーの招待を受けるケースだ。 台湾の法律は、中国を含む「敵対勢力」からの指示や援助を受け、選挙活動に参加することを禁じている。台湾南部・高雄市の検察は23年11月、中国側の招待を受けツアーに参加したとされる里長ら22人を捜査していると発表した。ツアー中には、総統選挙で「ある特定の候補者」を支持するよう呼びかけがあったとみられている。ロイター通信は、こうしたツアーは急増していて、総統選挙が近づいた23年に入り、1000人以上の里長らが参加したと報じている。 中国は、こうした“草の根”の統一工作を仕掛けているとされるが、一方で、習近平国家主席は「武力行使を放棄しない」と明言している。果たしてその本気度は――。
■蔡総統「中国は今は侵攻考える時ではない」 習政権“侵攻”の本気度は
「中国は、今は台湾への大規模な侵攻を考える時ではないでしょう」 23年11月、台湾の蔡英文総統がアメリカの有力紙ニューヨークタイムズのインタビューに語った言葉だ。習近平政権が「内部で山積する問題の対応に追われているから」だという。 実際、低迷する中国経済に習政権の危機感は大きい。不動産大手の経営難が続き、「反スパイ法」の改正を受け外資系企業の間で警戒感が広がっている。不安要素が多いのだ。 23年11月に行われた米中首脳会談で、習近平国家主席が「台湾に大規模侵攻する準備はしていない」との発言をしたとされる背景には、アメリカとの緊張緩和を図り、国内経済の低迷を打開したいとの狙いがあるとみられる。 では、「武力侵攻」は起こりえるのだろうか? 23年、台湾が公表した「国防報告書」は、このように指摘している。「全体主義政権は国際ルールを無視し、国益や政治的主張のために侵略戦争を仕掛けることができるのだ」 “台湾がどうであろうと、中国の習政権の判断次第で起こり得てしまう”というのだ。台湾海峡で常態化した中国の軍事圧力や、さまざまな手段を通じて分断を図ろうとする情報戦に日々、さらされている台湾側の危機感がにじむ。