高橋ヨシキが映画『フィリップ』と『ザ・ウォッチャーズ』をレビュー!
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! ナチスに復讐を誓った男の愛と孤独の物語!& 『シックス・センス』のM・ナイト・シャマランの娘による初監督作品! * * * 【写真】『ザ・ウォッチャーズ』のレビューにも注目! 『フィリップ』 評点:★3.5点(5点満点) カテゴリーが個人の幸せを圧殺する 作家レオポルド・ティルマンドの半自伝的小説の映画化で、彼が第二次大戦中フランクフルトにいたときの経験がベースになっている。 ティルマンドはその前後にもポーランドのレジスタンスとして活動し、ソ連の秘密警察に逮捕されるも移送中に列車が爆撃された隙に脱走したりと、死とすれすれの人生を送った人物で、終戦時にはノルウェーの強制収容所に囚われていた。 本作はフランクフルトの高級ホテルのウェイターとして、ポーランド系ユダヤ人という出自を隠して過ごす彼のひりひりした日常を緊張と共に描き出す。 そこではナチスの人種政策が人々の繋がりを分断し、ドイツ人以外の「外国人」を虫けらのように扱い、またそういう「外国人」と愛を交わしたドイツ人を「裏切り者」として辱め痛めつけているのだが、特権階級たるドイツ人の「日常」は見かけ上、平穏が保たれている。 フランス人と偽っているフィリップはドイツ人だけでなくさまざまな出自の女性と関係を持つが、それはすべて死の危険と文字通り隣り合わせなのである。 「人種」だとか「国籍」、「味方」や「裏切り者」といったカテゴライズがどれほどの暴力性を孕むのか、それを見せてくれる作品である。 STORY:1940年代、ポーランド系ユダヤ人のフィリップは自身をフランス人と偽り、ナチス将校の妻を次々と誘惑することで、ナチスへの個人的な復讐を果たしていた。ある日、フィリップは美しいドイツ人女性リザと恋に落ちるが......。 監督:ミハウ・クフィェチンスキ出演:エリック・クルム・Jr.、ヴィクトール・ムーテレ、カロリーネ・ハルティヒほか上映時間:124分 全国公開中 『ザ・ウォッチャーズ』 評点:★2.5点(5点満点) 父親は「ぞっとする感覚」の名手中の名手だが...... 『オールド』(2021年)、『ノック 終末の訪問者』(2023年)と、父親(M・ナイト・シャマラン)の現場で第2班監督として修行を積んだ(?)イシャナ・ナイト・シャマランの監督デビュー作である。 主人公たちはアイルランドの広大な森の中にある奇妙な建造物に囚われ、マジックミラー越しに夜な夜な彼らを見守る〈ウォッチャーズ〉と呼ばれる謎の存在と対峙することになる。 〈ウォッチャーズ〉は日中は姿を見せないが、夜になってから建物の外に出ると殺されてしまうといい、また深い森であるため徒歩で日中に外部まで到達することは不可能。 ダコタ・ファニング演じる主人公の名前が「ミナ」で、姉妹の名前が「ルーシー」なので、ホラー好きは「ああ、そういうことか」とわかってしまう部分も多少はあるが、物語はその予想を越えて後半さらにファンタジックな世界に突入する。 父親が製作しており、宣伝でもそのことを強調しているため、本作が父親の優れて洗練された作品と比較されてしまうのは無理のないことだと言っていいと思うが、そのせいもあって大変物足りなく感じられる。わけてもジャンルに必須の「ぞっとする感覚」が欠けているのは実にもったいない。 STORY:地図にない不気味な森で遭難したミナは、謎のガラス張りの部屋に迷い込む。そこで3人の男女と出会う。彼ら・彼女らは毎晩訪れる"何か"に監視されているという。そして破ると殺される3つのルールについて語り出した。 監督・脚本:イシャナ・ナイト・シャマラン出演:ダコタ・ファニング、ジョージナ・キャンベル、オルウェン・フエレほか上映時間:102分 全国公開中